研究課題
2018年度は、社会科学的な英語教育学(あるいはもう少し広く応用言語学・言語政策研究)を体系化するための基礎となる理論的検討を行った。同時に、その実践例として経験的研究も行った。(1) 理論的な研究として、(A) 批判的応用言語学の学説史的検討、および、(B) エビデンスベーストアプローチに代表される、社会科学における因果推論の適用可能性に関する検討を行った。前者については、批判的応用言語学の理論的背景をなす批判理論 (Critical Theory) に焦点を当て、とくにその学説史の面から検討した。そのうえで、批判的応用言語学と批判理論を接続するうえで障害となる課題を指摘した。また、批判的応用言語学における認識論をめぐる対立(実証主義 vs. 解釈主義)を調停するために批判的実在論の考え方が有用であることを示した。後者については、言語政策研究において「政策の因果効果」を推定するにはどのようなリサーチデザインが必要か、また、(エビデンスベーストアプローチの単純適用では対応できない)言語政策研究に固有の課題は何かを明らかにした。そのうえで、実現可能性が高いと思われる調査の実例を示した。一方、(2) 経験的な研究として、(a) エビデンスベーストアプローチの枠組みから英語教育の効果を検討する実証研究、および (b) 英語教育の政策過程の検討を行った。前者では、特定の英語指導法が生徒の英語力に与える因果効果(エビデンス)を明らかにするため、縦断的データを用いた差分の差分法で検証した。後者では、小学校英語に関する各種審議会の議事録やその背後の議論を渉猟し、小学校への英語活動・外国語活動の導入という政策がどのように作られたか(あるいは捻じ曲げられたか)を検討した。
2: おおむね順調に進展している
本年度に予定していた研究はおおむね行うことができた。本研究課題にもとづく学会発表・論文執筆・投稿も順調に行うことができた。
2018年度の成果を踏まえて、その方向性を継承しながら発展させる。とくに英語教育政策研究・言語政策研究に注目し、これらの基盤としていかなる理論が必要か検討する。
2018年度、北米への学会参加・発表を予定していたが、事情により参加ができなくなったため、旅費での支出が当初予定より少なくなった。2019年度も、国際学会・国内学会をはじめとして、いくつかの学会に参加・発表予定だが、いずれも遠方のため、次年度使用額を含め計画的に支出したいと考えている。文献調査等に関わる物品費は2018年度と同様の方針で支出予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)
Current Issues in Language Planning
巻: 20(3) ページ: 245-265
https://doi.org/10.1080/14664208.2018.1495372