研究課題/領域番号 |
18K12485
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
新谷 崇 茨城大学, 教育学部, 助教 (30755517)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ファシズム / カトリック / ピウス11世 / ピウス12世 / 全体主義 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、ヴァティカンがイタリアをはじめとするファシズム勢力に対して取った戦略、交渉を考察することで、戦間期から第二次世界大戦中の国際関係においてヴァティカンが果たした役割を浮き彫りにするものである。ヴァティカンの諸文書館で史料調査を行う計画であったが、いまだ安全に出張を行える状況ではなかったため、実施を見合わせざるをえなかった。そのため、本年度も同様、文献資料の収集、入手済みの史料と先行研究の分析、整理を中心に、国内で行える作業に注力した。また、次年度に史料調査を実施したいと考え、研究期間の再延長申請を行った。 今年度取り組んだ主な研究内容としては、①ヴァティカンが国家や政治権力との棲み分けをどのように考えていたか、②国家・植民地内で再編成される人々の管理についてのヴァティカンの姿勢、具体的にはアフリカやユダヤ人といった「人種」を巡りどのような立場を取っていたかに着目しつつ、教皇の発言、行動を分析した。 研究の成果公開として:①ヴァティカンが新規に公開したピウス12世時代の新史料を紹介し、その文書群の歴史研究における利用可能性について論じた。他の歴史研究者への情報提供としての価値があると考える。②本研究はファシズム勢力との関係性を扱う研究であるが、協力と抵抗だけでは割り切れない様態の把握を目指している。単純に割り切れない関係のあり方を考察するために、イタリアのユダヤ系作家P・レーヴィが提示した「グレーゾーン」という概念を歴史研究に導入すべく検討した論考を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も引き続き、新型コロナウィルスによる影響のため、予定していたヴァティカン教皇文書館での史料調査を取りやめざるをえなくなった。現地での新史料調査を核とする本研究においては深刻な状況といえるが、現在の条件下で可能なことを着実に行った。史料調査に赴けない分、これまで入手した先行研究の整理、史料の収集と分析を継続し、その成果を書籍として刊行すべく執筆を進めてきた。また、ヴァティカンの新規公開文書の利用可能性の検討、ファシズムとの関係性を歴史的に問う際の方法論上の提示を、成果公開として行った。当初の計画から考えると、現状の進捗状況はやや遅れていると判断せざるをえないが、国内でできることを着実に行いつつ、期間延長を再申請し、次年度に最終の史料調査を実施し、研究全体を形にしたい。
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今後の研究の推進方策 |
期間延長をして臨んだ本年度であるが、史料調査を十全に行えるほどには社会情勢が改善しなかったため、再度の延長申請を行った。研究計画の核としている史料調査をこの間行えていないことから、まずはその分の実施を優先する。計画しているのは、ヴァティカン教皇文書館、教皇庁布教聖省文書館、イタリア国立中央図書館でピウス11世時代の文書や刊行物史料の調査である。そこで入手した史料の分析から、ヴァティカンがイタリアをはじめとする諸ファシズム勢力に対してどのような関係性を築こうとしていたか明らかにする。くわえて、ローマ教皇庁が本研究期間中の2020年に新規公開した、ピウス12世時代(1939~1956年)の文書群も調査可能になったので、対象を広めながら史料の発掘に努めたい。以上の史料調査の成果を、単著して刊行すべくこれまで蓄積してきたものに盛り込み、研究全体を形にする計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で計画していたイタリアでの史料調査を延期せざるを得なかったため。次年度は、延期していた史料調査を行うとともに、その成果を速やかに取りまとめる計画である。
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