本研究の課題は、ヴァティカンがイタリアをはじめとするファシズム勢力に対して取った戦略、交渉を考察することで、戦間期から第二次世界大戦中の国際関係においてヴァティカンが果たした役割を浮き彫りにするものである。これまで感染症流行の影響で行えなかった、ヴァティカンの諸文書館での史料調査を、2023年12月にようやく実施した。史料調査では、エチオピア戦争、スペイン内戦、イタリアでの人種法の導入に際してヴァティカンが取った対応、国際政治上の見通しに関わるものを中心に文書を収集した。前年度まで積み重ねてきた先行研究の整理、刊行物史料の調査で得た内容を踏まえ、それらと突き合せながら今年度収集した史料の分析を進めた。教皇の信認を利用しようとするイタリア、ドイツ、スペインなどの諸体制と教皇聖座のせめぎ合いを、公的発言に留まらず水面下の交渉を含めて検討することで、ヴァティカンの側から1930年代後半の国際政治や枢軸の形成を捉え直せると見込んでいる。本研究課題は教皇ピウス11世(在位:1922~1939)関連の公開史料を扱うことを目的としていたが、この間の2020年3月にピウス12世(在位:1939~1958)の時代の文書が新たに公開された。そのことで、課題申請時の計画以上に長い時期の文書にあたれるようになった。しかし、本来の計画であれば、最終年度は調査の成果公開を行うはずであったが、それまで史料調査が実施できなかったこともあり、計画より遅れる形で調査、収集した史料の分析、取りまとめを行うこととなった。
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