研究課題/領域番号 |
18K12488
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
吉永 匡史 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (20705298)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 律令 / 賤民 / 奴婢 / 奴隷 / 古代日本 / 唐 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、「古代日本と中国唐・北宋王朝において、賤民制がいかなる特色をもち、“奴隷”身分がどのように発生・変容したのか」という学術的命題を立て、古代日本と中国唐・宋王朝における賤民制の法的構造と実態を、国家的身分と社会経済の両側面から解明することを目的とする。そして両者の比較検討によって差違と共通性を指摘し、その歴史的意味を明らかにすることを目標とするものである。 当該年度は、研究計画に従い、古代日本と唐の賤民制の比較研究、『唐令拾遺』『唐令拾遺補』で復原された唐令の賤人関係条文(戸令・捕亡令など)の再検討、復原根拠史料の史料学的再検証、唐宋変革期および北宋王朝の賤人の考察を実施した。 唐代賤民制については、拙稿「阿斯塔那509号墓出土過所関係文書小考」を公表した。中華人民共和国新疆維吾爾自治区阿斯塔那古墓群の509号墓より出土した売婢市券を取り上げ、本文書が過所(関の通行証)の発給過程で作成された写しであることに着目し、その特質を明らかにした。また日唐賤民制の比較研究においては、拙稿「日唐令奴婢売買条文管見」を公表し、日唐両令の奴婢売買条文について、かつて提示した唐令復原私案をもとに、比較研究を行った。さらに唐令の継受について、文化的側面からのアプローチを試み、『日本国見在書目録』などにみえる『唐令私記』という書籍に注目した論考「『唐令私記』にみる唐文化受容の一様相」を刊行した。 あわせて上記と平行して、唐令の復原に不可欠な復原根拠史料の史料学的検討(『本朝法家文書目録』の写本調査など)を行ったほか、当該研究の推進に必要な史料調査・資料収集を東京都・京都府・奈良県・三重県等で実施した。本年度も当初の予定では中国で史料調査を実施するつもりであったが、コロナ禍の影響で断念し、国内での史料調査をできる範囲で遂行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の投稿・刊行を随時行っており、現在成稿中の学術論文や著作についても、次年度以降に公表できる見通しが立っている。その他、史料調査・史跡調査も継続的に実施しており、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に準拠しつつ、次年度も研究を推進する。以下、日本古代史と中国唐代史に分けて述べる。 まず日本史については、前年度より進めている日唐律令賤民制の比較検討を進めるとともに、奈良・平安時代における奴婢の実態について考察を深め、成稿につなげたい。次に中国史であるが、賤民制関連の唐令復原研究を推進することにあわせて、唐宋変革期における賤人制の変容過程の考察を深めていきたい。以上の研究を踏まえつつ、“奴隷”の定義や生産関係をめぐる新たな理論モデルの創出に取り組んでいく予定である。 また、上記の研究を進めるにあたっては、唐令復原根拠史料の史料学的調査や、関連遺跡の実地調査を行う。調査は新型コロナウイルスの流行状況を慎重に注視しながら実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
中華人民共和国において史料調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大により不可能であったため、断念した。次年度において調査の可能性を探りたい。
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