本研究課題は「古代日本と中国唐・北宋王朝において、賤民制がいかなる特色をもち、奴隷身分がどのように発生・変容したのか」という問題関心に基づき、古代日本と中国唐・宋王朝における賤民制の法的構造と実態を、国家的身分と社会経済の両側面から解明することを目的とする。そして両者の比較検討によって差違と共通性を指摘し、その歴史的意味を明らかにすることを最終目標とするものである。 当該年度は研究計画を変更し、最終年度より1年延長した期間である。その主目的は中華人民共和国における史料・史跡調査を実施することにあったが、残念ながらコロナ禍の影響により結局実現できなかった。しかし当該年度に至るまでの研究成果をふまえて、古代日本と唐・宋王朝の比較研究を進めた。あわせて前年度より継続して、『唐令拾遺』や『唐令拾遺補』で復原された唐令の賤人関係条文の再検討と条文復原、および復原根拠史料の史料学的研究を実施した。これらの研究成果については当該年度中の公表には至らなかったが、次年度以降の刊行を見据え、論文執筆を行っている。 また賤人制関係の唐令条文の復原と継受という観点では、律令学の継受・教示という問題が浮かび上がってくる。この点について、「日唐における律学博士と明法」(坂上康俊編『古代中世の九州と交流』高志書院、2022年)を発表した。 史料調査についても前年度より継続し、唐令復原根拠史料の版本調査を行ったほか、当該研究の推進に必要な史料調査・資料収集を東京都において実施した。
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