本年度の成果として、山城智史著『琉球をめぐる十九世紀国際関係史ーペリー来航・米琉コンパクト、琉球処分・分島改約交渉』(インパクト出版会、2024年1月)を刊行した。本書は1853年から1854年のペリー来航、1872年から1880年の明治政府の琉球処分に焦点を当てた。特に、1854年にペリーが日米和親条約を調印した後、琉球とも合意書を調印した史実に関する米国側史料を分析した。これまでの日本国内の研究では、ペリーが琉球と調印した合意書が条約、協約、協定、盟約等々、その形式・名称が統一されていない。本書では、米国側史料に「Compact」と明記されていること、米国議会の批准、大統領の公布にも明記されていることに鑑み、「米琉コンパクト」という新たな名称を提唱した。これにより、ペリー及び米国政府が江戸幕府とはTreaty、琉球とはCompactを調印・批准したことの意義を再検証することができた。また、琉球処分をめぐる分島改約交渉については、清朝側の史料を分析し、李鴻章や曾紀澤、総理衙門の記録から琉球問題とイリ問題が密接に関係していたことを明らかにした。具体的には、分島改約交渉が結果的に調印されなかったことの原因について、これまでの日本国内の研究ではイリ交渉の影響と在清琉球人の暗躍という二つの可能性が示唆されてきたが、いずれも説得力に欠けており、通説とは言えなかった。本書では、『李鴻章全集』を再検証し、イリ交渉との時間的連動性を証明した。 本書の刊行によって、琉球の歴史だけではなく、西洋とアジアの衝突、近代という時代性についても成果を残すことができたと考える。
|