研究課題/領域番号 |
18K12490
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研究機関 | 亜細亜大学 |
研究代表者 |
今野 裕子 亜細亜大学, 国際関係学部, 講師 (10707623)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 移民史 / 漁業史 / 法制史 / アメリカ史 / カナダ史 / 法文化圏 / アジア系漁民 / 漁業権 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀後半から20世紀前半のアメリカ合衆国(以下アメリカ)およびカナダにおける「漁業権」概念の人種化の過程を、移民史、漁業制度史、法制史の見地から解明し、水産資源保全という「公益」が人種主義に絡めとられる過程及びその帰結を詳らかにすることを目的とする。従来個別に研究の進められてきた複数の分野を架橋するとともに、「北米法文化圏」という概念を用いる本研究の意義は、アメリカ東海岸とヨーロッパ(主にイギリス)との関係性探求に偏りがちな法に纏わるトランスナショナル・ヒストリーに、西海岸の政治的文脈を重ね合わせ、アメリカ・カナダ地域の連関性と法の運用や行政上の施策を歴史的に捉えるための新たな視角を提供できることである。 上記目的を達成するため、国内外の様々なアーカイブにて調査を行う計画を立て、初年度であった2018年度は先行研究を渉猟するとともに、当初の予定通り3つの海外サイトにて史料調査を行った。オタワにあるカナダの国立公文書館では、資源濫獲を防ぐため漁業権の制限を目的として設けられた漁業ライセンスに関する行政文書を紐解いたほか、20世紀初頭のブリティッシュ・コロンビア州における魚類缶詰工場の雇用実態、第二次世界大戦前の日系人漁船に対するカナダ政府の諜報活動、戦時中の漁船徴集や日系人収容などに関する、貴重な数々の史料を収集することができた。サンディエゴ歴史センターでは、アメリカにおける19世紀末や20世紀前半の中国系及び日系漁民に関する史料を渉猟し、法の適用を受ける側、すなわちアジア系漁民の生活や労働実態を把握することができた。さらに、アメリカ国立公文書館のメリーランド州カレッジパーク分室にて、連邦政府による漁業政策に関する史料を収集・分析することができた。 上述のように、2018年度の研究はほぼ計画通りに進行した。引き続き海外アーカイブ調査を中心に研究を進めてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも述べたとおり、2018年度は予定していた海外の複数サイトによる史料調査をすべて計画通りに行い、史料の解析も継続的に行っている。また、当年度には史料を集めるのみならず、先行研究から得た知見をもとに、これまで自身が行ってきた南カリフォルニア州における日系漁民に関する研究を組み立て直し、日本西洋史研究会の年次大会などで報告を行って、貴重なフィードバックを得ることができた。有意義かつ効果的な批評を受けたことで、今後の研究の方向性が初期段階で定まったことも、計画の順調な遂行を後押しした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き海外のサイトにおける史料調査を中心に行うとともに、日本国内での史料収集や、先行研究のさらなる理解と再検討を進める。カナダのブリティッシュ・コロンビア州立公文書館にて、地方政府における行政資料を閲覧・分析するほか、日系人排斥において中心的役割を演じた人物に関するアメリカ・シアトルのアーカイブを訪れ、個人文書を渉猟する予定である。また、国内では国立国会図書館で閲覧可能な北米邦字新聞の記事を分析し、漁業に関する戦前日系社会の動きや反応を調査する。 このほか、国内外の研究者との交流から知見を得、さらに法文化圏に関する概念を精緻化する。特に、11月にはハワイで開催される American Studies Association の年次大会で報告を行うことが決まっており、本研究に関して適切なフィードバックを得られる好機と捉えている。 調査に関してはおおむね順調に進んでいるが、今後予想される課題は、膨大な地理的空間と関連諸分野を網羅するのに十分な研究時間の確保である。現在まで集めた史料について、その分析も順次行ってはいるものの、出版に向けてさらなる精読とまとめが必要になるものと予想される。しかし、2018年度のアーカイブ調査で多くの貴重な史料を得ることができたため、当初想定していた追加調査を行わなくとも成果を纏められる可能性が高まったため、この問題も解決できる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたほど2018年度の海外調査に費用が掛からなかったため、未使用額46,089円を次年度に繰り越した。次年度使用額は4万円台であるため、国内調査における複写費用や書籍の購入代に充てる予定である。
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