研究課題/領域番号 |
18K12491
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
矢越 葉子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30720156)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 正倉院文書 / 奈良時代写経 / 敦煌文書 / 敦煌写経 |
研究実績の概要 |
本研究では、①正倉院文書のうち宝亀年間の文書群と経巻群の比較研究、②敦煌文書中の写経事業にかかる史料と敦煌写経に施された記銘の比較研究、③日中古代写経関係史料と経巻群の比較研究、という手順を踏まえて、正倉院文書および敦煌文書の史料群としての成り立ちを究明することを目指している。 当該年度は、前年度と同様にこのうちの②を中心に研究を進めた。写経の製作工程については日本の奈良時代写経および正倉院文書に基づく検討によりおおよその工程が明らかとなっている。しかし、日本の奈良時代写経は完成品が今日に伝来していることから、誤りや破損等に起因して料紙を破棄した事例(写経破紙)は遺品に含まれておらず、どのような基準で破棄されたのか、また破棄した後にどのように処理するのかという点が不明瞭であった。この日本の写経破紙に相当するのが敦煌の兌廃稿であるが、敦煌写経は未完成品も多く含むことから、この料紙の破棄について多くの資料を提供している。前年度に着手したこの写経破紙と兌廃稿の比較研究を継続し、オンライン公開されているデータベースを活用する形で中国国家図書館所蔵分以外に対象を広げて関連史料を収集した。 また①との関りでは、古写経は国内の博物館や美術館で広く所蔵され、特別展・企画展のほか常設展示に出陳されることも多い。前年度よりもさらに限定された機会となってしまったが、このような展覧会の場で原本を確認し、また図録や書籍の形で画像資料を入手することが可能なものは購入もしくは複写の形で情報収集に努めた。その成果の一部を、「安田文庫旧蔵奈良時代写経の検討」(『古代学研究所紀要』30、2021年)、「奉写御執経所・奉写一切経司奉請文継文の再検討―継文の整理と官司の在り方をめぐって―」(古瀬奈津子編『古代日本の政治と制度―律令制・史料・儀式―』同成社、2021年)として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
「研究実績の概要」に記載したように、本研究は①から③の手順を踏まえて進展させる予定である。前年度に①については基礎的な作業は完了し、②の敦煌文書および敦煌写経の検討については、公刊されている影印およびオンライン公開されているデータベースを活用する形で進めている。 このような影印やデータベースでの確認結果に基づき、フランス国立図書館および中国国家図書館での原本調査を実施する計画を立てていたが、covid-19の感染拡大の影響により中止せざるを得ない状況が続いている。 また国内での感染拡大に伴い、国内の図書館や研究施設の利用も制限されており、研究全体の進捗も思うに任せない状況が続いている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の①について、次年度も奈良時代写経の画像が公刊・公開されているものに加え、原本の調査が可能なものについては適時実施する予定である。これら特定された経巻と復原によって把握し直した史料群との比較検討を行う。この比較検討を通じて、宝亀年間の東大寺写経所で実施された五部の一切経の写経事業について、各事業の性格やその差異を明らかにすることができ、この各事業の差異を踏まえて史料群を検討し直すことは、宝亀年間の史料群の時期的な特徴を捉えることにつながると予想される。 ②については、フランス国立図書館および中国国家図書館での原本調査を優先的に実施するつもりではあるが、covid19感染症の流行がいつ収束するのか現状では見通しが立たない状況である。公刊されている影印およびオンラインデータベースを活用することで代替することとしたい。このようにして収集した経巻への記銘に関するデータをもとに、写経料紙の破棄以外の工程にも視野を広げ、帳簿群との比較を通じて、敦煌で行われていた写経事業の実際とその管理の実態を明らかにする。 そして最後に、①②を踏まえ、③日中の写経事業にかかる史料同士、経巻同士の具体的な比較検討を行う。この際に帳簿の様式だけでなく、各帳簿が果たしている機能に着目することで、日中で行われていた写経事業の共通点や相違点がより明確になり、双方の史料群の性格やその成り立ちを究明することができるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年末から世界的に流行しているcovid-19感染症の影響により、国内外での現地調査や研究機関の利用に困難な状況が続き、本研究の進捗も遅れている。同感染症の収束はまだ先になるとみられるが、既に公刊されている書籍やオンライン公開されているデータベースを活用することで当該年度に成果を得ることができた。そこで本研究の実施期間を1年延長し、当該年度と同様に実施可能な形で研究を進めることとした。
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