研究課題/領域番号 |
18K12492
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研究機関 | 沖縄大学 |
研究代表者 |
前田 舟子 沖縄大学, 法経学部, 講師 (70802859)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 評価貿易 / 琉球史料調査 / 冊封船送迎之図 / 島津家文書 |
研究実績の概要 |
初年度となる当該年度は、「評価貿易」に直接又は間接的に関係する史料の閲覧・収集を中心に行った。調査内容は次の通り。①宮内庁書陵部にて「康熙帝賜琉球国王尚貞勅諭写」を閲覧。② 宮内庁公文書館にて琉球に関する史料(異国日記、評定所文書目録等)を閲覧。③ 国立歴史民俗博物館にて「重要文化財 越前島津家文書」「冊封使船送迎之図」「琉球使節道中絵巻」を閲覧。 以上はいずれも初めて目にする絵巻・文書であり、本研究にとって大変重要な史料群である。宮内庁公文書館には「那覇港貿易」と題された史料があったが、時間の都合上、所在確認だけとなったため、今後引き続き収集を行う。該史料は題名から推察して「評価貿易」に関連する史料だと思われるものである。 また、国外では台湾において沖縄県教育委員会と共同で琉球史料調査を実施した。台湾大学図書館が唯一所蔵する道光・同治年間の評価日記の他、奉使琉球詩、近代沖縄の貴重史料である田代安定文庫などを閲覧した。台湾故宮博物院では、琉球と関係のある清朝の役人の人物データベースを検索し、個々人の経歴を調べた。中央研究院では、明清档案室にて現存する最後の琉球国王尚泰の勅書や朝鮮・安南・暹羅・日本などの国書を閲覧させて頂いた。さらに、中央研究院の内閣大庫にある琉球関係档案を検索し、目録を作成した。内閣大庫の琉球関係档案に関しては、すでに沖縄県教育委員会が収集を行っていることから、今後はその史料解析を行いたいと考えている。 こうした調査以外で、初年度には以下の活動も行った。①京都大学ユーラシア文化センターにて満洲語講座に参加。②韓国プチョン市にて「沖縄特別館」開館レセプションに参加し、学術発表を行う。③中国の商務印書館、中華書局、三民書局といった中国を代表する出版社を訪問し、琉球史書籍の出版の可能性を探った。 このように初年度は国内外での調査研究が中心であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は初年度ということもあり、研究環境を整えつつ、研究対象となる関連史料の閲覧・収集に奔走した。そのため、収集した史料の分析までには至らなかった。それでも、個人調査だけでは見ることの叶わない史料を、沖縄県教育委員会や東京大学との共同調査によって閲覧が実現したことの意義は大きかった。 とはいえ、史料分析の観点から言えば、当該年度に台湾大学図書館所蔵の琉球関係史料集成全5巻の出版を無事終えたことは大きな成果である。中でも、当該年度には、本研究のテーマである同治5年の評価日記の翻刻・現代語訳が完成し、無事に刊行された。 本史料を現代語訳する作業の中で、尚家文書の中から関連する興味深い史料を見つけた。それは「同治五年丙寅 冠船之時碑文石塔其外唐人可見咎物件調部方日記 全」と題された尚家文書で、冊封使が来琉して那覇に滞在する際、彼ら唐人には見られてはいけないもの、または彼らに見せるために整えておくべきものを調査した当時の準備日記である。久米村や首里の役人が協同して作業に当たったことが知れる意味でも貴重な史料であり、そこから那覇に長期滞在する冊封使や福建商人一行に騒ぎ立てられないよう気を配る王府の姿勢を伺うことができた。本史料を紹介した研究発表を一回行い、その一部を改編して年度末には一本の論文にまとめた。 他に、当該年度には琉球関係の満文档案を解読するために、満洲語の修得も同時並行して行ったが、まだ実際に分析には至っていないため、次年度の課題としたい。 また、韓国で朝琉交流の研究報告を行った際、韓国では琉球史の研究者が非常に少ないことを知った。しかし、今回の発表を機に、韓国の研究者とも今後共同研究を行うという構想を練ることができたのは一つの成果であると言える。さらに、中国の大手出版社を訪問したことで、中国における琉球史への注目度の高さを実感したほか、意見交換を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、初年度で収集した史料の分析から着手する予定である。初年度は県外や国外での史料調査が中心となってしまったため、今後はまず沖縄県内にある関連史料から収集したいと考えている。具体的には、那覇市歴史博物館が所蔵する尚家文書と家譜資料の収集である。評価貿易に関するすべての史料を収集して目録を作成することで、関連文書の位置づけを明確にし、その上で一つ一つの文書の解析に入っていきたいと考えている。 また、家譜資料の記録から、評価貿易に従事した役人たちの履歴を探し出し、評価貿易に従事することで得られた褒賞などを調べる予定である。台湾大学図書館所蔵の評価日記には、役人たちが通常業務と兼務して評価貿易に従事していたことから、その苦労と功績を認めるよう王府に申請している文書がいくつか収録されている。そうした個々人の業績に対し、評価貿易という臨時業務がどれほど影響を与えていたのか、それを家譜資料の中から明らかにする予定である。 そして、次年度に実現するかどうかは分からないが今後の課題として、評価貿易に参加した100名以上もの福建商人たちの足跡を追いたいと考えている。こちらの研究は沖縄・中国においてもほとんど皆無と言っても過言ではない。そのため、琉球で貿易を終えた福建商人が帰国後にどのように活躍していたのかを少しでも知ることができれば、評価貿易研究においては大きな成果となるのではないかと期待している。そのためにも、初年度に台湾大学図書館の史料で解析を試みた福建商人が使用した数字記号である“蘇州碼”をより深く理解する必要がある。こちらは、中国での実地調査を通して手がかりとなる資料を探したいと考えている。
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