・最終年度に実施した研究の成果 最終年度は、もともと汪精衛政権期の治外法権撤廃問題や租界返還問題をテーマに研究することを予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響などにより、海外での関連する資料調査の実施が困難になった。そのため、これまでに収集してきた史料と国内の図書館等での史料調査で対応できるテーマを選びなおし、日中戦争期の中国の沿岸交通・貿易の変化とその影響について検討することにした。今年度の研究を通して、中国の沿岸貿易に依拠した利権をイギリスは重視しており、日本の沿岸封鎖によって華中と華南、香港などの地域を結ぶ経済活動が停滞したことをイギリスが問題視した事実を明らかにした。本年度の研究成果は、2021年度に学会発表を行い、最終的に論文にまとめる予定である。 ・研究期間全体を通じて実施した研究の成果 占領地政権の樹立と、それによる地域ヘゲモニーの変化に関する研究について、研究遂行者はすでに「満洲国」「冀東防共自治政府」の事例を検討してきたが、日中戦争期の「中華民国維新政府」「汪精衛政権」に関しては未着手であった。3年間の研究期間全体を通して、「中華民国維新政府」「汪精衛政権」による現地支配が具体的にいかに進展したのかを海関行政や貿易などを事例に明らかにするとともに、そのような「事実上の政府」による支配に対し、イギリスやアメリカなどの国々、さらには中国の現地で活動していたイギリス人やアメリカ人が示した反応を歴史史料に基づいて明らかにした。これにより、宣戦布告を行っていない時期の日中戦争下の占領地支配は、極めて制約的な条件下で進展しており、そのような制約の構造は太平洋戦争開戦に伴って取り払われたことを指摘した。
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