研究課題/領域番号 |
18K12498
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
湯川 文彦 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (00770299)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 明治維新 / 民権 / 地方統治体制 / 教育法制 / 都市行政 |
研究実績の概要 |
平成30年度には、明治新政府の統治体制と「民権」の関係について、地方統治問題、教育法制、都市行政の三つの視点から検討し、下記の研究成果を挙げた。 第一に、政府の地方統治問題を当務者の課題認識と実践から捉えるため、とくに法制官僚・政治家として活躍した井上毅に注目して分析した。井上は明治維新の重要性を理解しつつも、それが人心動揺と政治不信を拡大する危険性を認めて軟着陸の道を模索していた(『明治史講義』第7講「井上毅」)。とりわけ三権分立体制移行に伴う議会制の導入は、民意の間接的表明による地方統治の改良という目的のために重視され、政府では議会制を媒介として一大改革と人心収攬(安定的統治)を両立させようとしていたことが明らかとなった。 第二に、政府の統治体制の構築について、人民生活に深く関わっていた教育普及事業に着目し、明治10年代の教育関係法令を対象として政府内の「民権」論議を分析した(「明治10年代教育事務における『民権』論」教育史学会第62回大会研究発表)。これにより、政府における「民権」の承認は「干渉」を正統化し、あるいは「干渉」の限界を受け容れるための法的論理として用いられていたことを明らかにした。 第三に、地方統治の特殊領域と目されてきた都市の特性について、とくに東京の都市行政の形成過程を対象として、中央政府・東京府・府民の問題関心と活動を総合的に分析した(「官僚からみた『都市』問題」国際日本学シンポジウム第20回)。政府官員たちは全国人民一般の公平性に気を払いながらも、先進地域と後進地域という都市の二重性を実感し、都市の特殊性・不公平性を承認していくこととなった。 なお、京都府、長崎県において史料調査を実施し、明治期の府県庁文書から地方統治・「民権」認識に関わる重要史料を収集し、次年度の研究を展開するための準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画で取り扱う予定だった史料群の範囲を広げ、検討対象についても都市行政を加えて実施した。その結果、本年度では政府の統治体制の課題と特質について、三つの視点から、政府官員の認識と活動の分析を通じて明らかにすることができた。 本年度中に扱った議会制導入と教育普及については、ともに統治体制の方向性や政府が認めようとする「民権」の特性を左右する重要問題であり、両問題に対する内閣・各省・府県庁および地域人民の議論を包括的にとらえることができたのは一定の成果といえる。 一方、明治新政府内では明治維新の改革志向の裏で、現実志向・安定志向が働いており、両者のバランスをとる必要性が高まるなかで「民権」承認に対する意識もまた高まっていったことが窺えた。これに関連して、当初予定していた政府要路・各省政策担当者の史料は勿論、一層幅広い史料群を検討する必要が生じ、実際にかかる検討を行えたことはポジティブな結果といえる。また、前出の議会制導入・教育普及に加え、都市行政の形成にまで本テーマを拡張し、より広い視野で政府の統治体制・「民権」論議を捉えることができたのも充分な成果といえる。 なお、予定通り京都府・長崎県において史料調査を実施し、次年度の研究計画において重要となる史料を収集することができた。前掲の研究成果とともに次年度における「民権」論議の詳細な検討に向けて充分な準備ができたものと認める。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究成果および収集史料を引き継ぎ、さらに法制・行政関係史料を収集しつつ、明治新政府の中央・地方官員の統治体制・「民権」に対する認識について詳細な分析を行う。とくに法制官僚および地方官の認識については、複数官庁(内務省・文部省など)・複数府県(京都府・長崎県・岩手県など)の議論を総合的に検討することとする。
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