研究課題/領域番号 |
18K12504
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研究機関 | 札幌国際大学 |
研究代表者 |
篠崎 敦史 札幌国際大学, 人文学部, 講師 (90786899)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本古代史 / 医療史 / 対外関係史 / 海域アジア史 / グローバルヒストリー / 漢方 |
研究実績の概要 |
本年度は①論文2本を公表、②学会報告を1回実施した。 ①については「日本古代の遣外使節と所持薬物」として、中国医学を導入した古代日本律令国家が、どのような体制のもと、遣唐使などの外部との交流にのぞんでいたのかについて明らかにした。「遣渤海使の所持雑薬からみた日本と渤海の交流の一断面」では、日本と渤海の交流の中で食をめぐる問題があったが、これに対し律令国家は中国医学を用いることでその問題に対処していたことを明らかにした。これらの成果によって、遣唐使や対渤海外交など、古代日本の外交に東アジア共通の医学知識が重要な位置にあったことを突き止めた。この意味において、古代日本が中国医学を導入したのは自国の「文明化」のみならず、中国、朝鮮半島との外交の前提を整備する意味合いも持っていた可能性があるとの見通しを得ることが可能になった。 一部の論文については、日本史のみならず東洋史の研究者の目にも触れやすい媒体で発表を行い、広く成果を共有できるよう配慮した。 ②については「「敦賀唐人」考」というタイトルで大阪の続日本紀研究会で発表した。この発表を通じ、日本海沿岸で活動する中国系商人の位置づけを明確にするとともに、院政期の院の周辺における対外的文物、知識の受容体制を明らかにした。これについては次年度、査読論文化する予定である。 上記のほか、関西の研究機関、図書館などで『医心方』や『外台秘要方』など、日本、中国、朝鮮医学関係の文献と研究者寄贈資料の調査もあわせて実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は「遅れている」としたが本年度は大きく改善することができた。その理由として、ひとまず研究対象を「日本」に関するものに焦点を絞ることによって、調査すべき文献、先行研究の範囲を限定したことなどが挙げられる。 本年度は『延喜式』や『医心方』を中心に、残存史料に残されている薬物の分析を行い、特に見落とされがちであった遣唐使などの外交の文脈での薬の全体像を明らかにする作業を実施した。課題としては薬効についての検討が不十分に終わったが、これは分析に必要な書物の残存状況がよくなく、また実際に当時どのような目的で使用されていたか明確にするだけの記録が残っていないことに起因する。そのため、この点の分析は後回しとし、古代日本が外部との交流の中で中国医学がいかに機能していたかについて明らかにすることに注力した。 また、院政期に白河院などが医学書を持っていることなどから、東アジア海域のどのような状況のもと、治天の君に中国医学書がわたったのかを明らかにするという問題関心のもと、9~12世紀前半の対外交易全体について整理をした。これについては学会発表を通じて社会に成果を還元し、次年度、査読論文化を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
①昨年度学会報告したものを査読論文化する、②古代日本における中国医学知識受容状況を調べる、③広く中国、朝鮮、日本、東南アジア、イスラーム宗教圏の社会でも流通した薬材を調べる。 ②については具体的には、中国の歴代本草書にみえるイスラームなどの西方薬物の受容状況の調査を念頭においている。③については、一部の薬物に焦点をあて、その生産場所と消費場所について明確にしていく。特に、現在の薬物比定では説明がつかない地域で生産されている薬に焦点をあて、分析していく。これを通じて、中国を中心とする東洋医学がいかに世界をつなげていたのか、その一端を明らかにする。 このほか、本来は韓国、中国でのフィールドワークを予定していたが、世界的な感染症の流行により、実施が難しいと予測される。この点、知り合いの研究者などと情報交換をしながら、状況の推移を見守っていく。実施が困難と判断される場合は、可能な範囲内での安全な別な調査の実施か、次年度への先送り事項とする。
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