これまでに引き続き、本年度も資料の分析と研究成果のとりまとめを優先した。清をめぐる通商条約(不平等条約)という、いわば19世紀の東アジアに形成された国際関係の上に、日本による二国間協商網の形成という20世紀の新たな国際関係を位置付け、義和団事件後の対清通商条約の改訂と1904年の日露協商(日露開戦過程)の関連を分析した。従来は別々に扱われていた、両者の相互関係に注目したのである。その結果、満洲の新規開市・開港先に対する条約権利の履行を、日本が日露協商によって保障しようとしていたことが明らかになった。このことは、開戦原因を追究する目的のもとで日露協商が分析されていた従来とは異なる研究成果であるため、論文としてとりまとめた。また、1902年調印の日英同盟も、清および韓国をめぐる既存の通商条約との関係を分析することが課題となることも判明した。 『古文書研究』への寄稿では服部龍二『外交を記録し、公開する―なぜ公文書管理が重要なのか』(東京大学出版会、2020年)を、『日本歴史』への寄稿では大日方純夫『世界の中の近代日本と東アジア』(吉川弘文館、2021年)の批評と紹介を行うことで、学術書を社会的に還元する役割を果たした。京都大学現代中国研究センターでは、岡本隆司編『交隣と東アジア―近世から近代へ』(名古屋大学出版会、2021年)の合評会にて報告を担当し、朝鮮史における「交隣」の近世から近代への変化を辿ることで、日本史側では近世史と近代史の接続が課題になっている点を確認した。
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