研究課題/領域番号 |
18K12507
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
上原 こずえ 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (60650330)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 労働 / 移動 |
研究実績の概要 |
2020年度は、経済開発や軍事への賛成および反対をめぐる集合行為に参与してきた個々人とその労働経験の、社会運動という集合行為に与える意味を考察する研究を学会および雑誌記事にて発表した。今年度の科研費は主にこれらの研究を遂行するためのフィールドワークや資料調査、および収集した資料のデジタル化や文字起こしの費用にあてられた。 1.研究論文"Okinawa People’s Philosophy of Direct Action against Capitalism and Imperialism from Post-World War II to the Present"(Resistance to Empire and Militarization: Reclaiming the Sacred, Equinox Publishing, 2020)では、現代の沖縄における直接行動が示唆する代表制と抵抗運動の主体の問題について考察した。 2.シンポジウム「1970~80年代の沖縄を考える」(2020年度 沖縄社会学会)では「運動と生活のはざまで:資本主義に抗う沖縄青年労働者の自立と相互扶助」を主題に、施政権返還時の沖縄における不安定就労の拡大と失業率急増のなかで、関東に移動し就労する沖縄出身青年たちによる「ゆうなの会」結成の背景、活動内容、問題意識活動について、「ゆうなの会」メンバーが保管する資料の分析をもとに報告した。 3.雑誌記事「食べるための労働を問い直す─1970~80年代の沖縄青年労働者たちの「自立」と「相互扶助」」(『福音と世界』2021年2月号)では、2. の「ゆうなの会」活動の意義を沖縄の社会運動史に位置付け考察した。1970-80年代当時の関東における沖縄出身者を取り巻く労働疎外や人種化を「ゆうなの会」メンバーが問題化し抵抗運動の主体となっていく経緯をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は主に、2019年度までに収集していた資料のデジタル化(スキャン作業)と文字起こしに加えて、上記の研究報告、論文および雑誌記事の執筆を行った。 今年度、特に進展が見られたのが、1960年代~80年代に本土に移動し労働を経験していた沖縄出身青年たちの「ゆうなの会」活動についての資料分析であった。本土資本の流入に伴う大規模開発が各地で進む一方で、不安定就労状況や失業が蔓延する沖縄から排出された人々が自らを「棄民」として認識し、相互扶助の活動を通じて、抵抗運動の担い手として主体化していく過程について知ることができた。 しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響は大きく、兼ねてからコンタクトを試みていた、日本および環太平洋諸島の集合行為のネットワークのなかで活動していた人物(在サイパン)への聞き取り調査および関連資料の収集については遂行することが難しく、課題が残った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、フィールドワークの範囲を国内にとどめ、2020年度までに収集した資料および文字起こしを終えた聞き取り調査の記録を整理し、疑問点を抽出するとともに、最終年度の報告書を兼ねた論文作成の作業に集中する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額分351,005円、2020年度に延長申請を行った理由はコロナ感染拡大によりフィールドワークなどの遂行に遅れが生じたたためである。最終年度である2021年度は、すでに収集してある資料や聞き取り調査データの整理に加え、論文化のための国内に限ったフィールドワークに科研費を使用する予定である。
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