研究課題/領域番号 |
18K12510
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
秋山 道宏 明治学院大学, 国際平和研究所, 助手 (90813767)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 沖縄経済 / 米軍基地 / 経済界 / 建設業界 / 占領と経済 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に即し、基礎資料の収集とインタビュー調査を実施し、そこで得られた成果について学会報告(2回)を行い、論評をまとめて公表した。 基礎資料の調査としては、9月、12月、2月に沖縄で調査を実施した。そこでは、沖縄県立公文書館に所蔵されている米国陸軍沖縄地区工兵隊(DE)の文書収集の収集と、建設業の業界紙である『週刊建設新聞』および経済団体である沖縄経営者協会の『沖経協ニュース』について重点的に資料収集を行った。DE文書については収集を完了し、業界紙は占領期から日本復帰にいたる時期(1960年代ー70年代)についてほぼ網羅的に調査を行えた。また、インタビュー調査では、2018年10月に中堅企業の照正組会長の照屋義実氏へ(継続インタビュー)、12月に建設業を含むグループ企業・金秀グループ会長の呉屋守將氏に聞き取りを行った。呉屋氏へは新規の聞き取りであったが、鉄工業からスタートし建設業に展開した歴史的背景、さらに現代にいたる多角化(小売店も展開)と辺野古新基地建設に反対を表明するにいたった過程についても把握できた。 以上の調査結果を受け、2018年6月には関東社会学会第66回大会にて「1960年代後半の沖縄経済界における経済開発と業界対立:建設業界の動向に着目して」(第5分科会:産業・労働 )および同年10月には経済理論学会第66回大会にて「東アジアにおけるアメリカ帝国主義の展開と経済開発:戦後沖縄経済に着目して」(第1分科会「日本資本主義経済の諸相」)というテーマで学会報告を実施した。この報告については、現在、論文化と学会誌等への投稿を進めている。加えて、建設業や経済界に関する知見を踏まえ、インターネット記事を配信する「沖縄を深堀り・論考するサイト OKIRON」に「「新時代沖縄」を経済界の変化から読み解く」という論評を執筆し、広く成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況であるが、研究計画に即して、調査研究と成果の公開の両面において、おおむね順調に進んでいる。 資料収集の現状としては、研究計画に示した基礎的な資料の収集については順調に進んでいる。ただし、日本復帰後の建設業における受注関連の入札データの収集については、入手経路を含めて検討中の段階であり、また、収集した資料以外の基礎的な資料についてもさらに網羅的にあたることが求められる。加えて、沖縄県立公文書館で収集した米国陸軍沖縄地区工兵隊(DE)の資料は、数も限定されているため、米国の公文書館での所蔵状況を含めて確認の上で、収集を行う必要があるだろう。 また、インタビュー調査については、これまで築いてきた関係のなかでの継続的な聞き取りを1件(照屋氏)と新規でのインタビューを1件(呉屋氏)の合計2件と、資料収集に集中したため数としては限定されたものであった。さらなる対象の拡大とインタビューの実施が求められる。 成果公開の進捗としては、関連する学会報告を2回実施できたことで、研究の進展に合わせて学術的な成果の公開を行うことができている。また、現代の情勢変化に合わせた、沖縄経済界の動向に関する論評を出せたことで、一般市民向けにも研究成果の還元ができたと考える。ただし、学会報告の内容については、当初想定していた社会学系の学術誌への投稿がテーマ的に難しそうなことから、沖縄戦後史関連の学術誌への投稿に切り替え、学会や研究者向けにも、確実に成果公開を実施していく必要があろう。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度については、資料調査、インタビューおよび成果公開について、下記の通りの推進方策で進めていく。 まず、資料調査についてであるが、基礎的な資料の網羅的な収集を継続するとともに、受注関連の入札データの入手経路を特定したうえで収集を開始する(2019年度内に収集を終え、分析に入る)。また、建設業の歴史的な成立や米国等の海外企業との関わりについては、日本国内での資料収集に制約があるため、米国の公文書館や企業アーカイブズも視野に入れて、資料の所蔵状況の調査および必要な場合には現地での資料収集を実施する。 次に、インタビュー調査だが、研究の進展のなかで「戦後沖縄におけるグループ企業の歴史的な形成」という視点も出てきている。そのため、2019年度には、新たな関係づくりのなかでインタビューを実施できた金秀グループへの継続的な聞き取りを実施するとともに、戦後沖縄の政治経済において重要な位置を占めてきた國場組(企業グループ國和会)も対象とし、可能な限り幅広くインタビューを実施する。その際、創業者や二代目など、社長・会長クラスだけでなく、一定程度経営に関わっていた役員・幹部クラスまでを含めて検討する。 最後に、成果公開については、優先的に行う作業として、2018年度の調査結果全体も加えるかたちで、学会報告を行った内容を論文化する。当初想定していた投稿先への投稿が難しいため、沖縄関連の学術誌である『沖縄文化研究』(法政大学沖縄文化研究所、査読審査あり)に7月末に投稿を行う。また、今年度は、新たに受注関連の入札データを収集するため、2019年度内には収集した資料の概要だけでも公開できるように努める。加えて、本研究テーマにおいては、資料的な蓄積や公開が限定されているため、収集資料について明治学院大学や沖縄の所属研究所(沖縄国際大学、沖縄大学)の紀要などで優先的に紹介を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、おおむね順調に研究を進めることができたが、旅費、謝礼およびテープ起こしの費用の支出が抑えられたため、次年度使用額(繰越)が発生した。旅費については、沖縄調査に際して日程的な都合から長期で滞在することがあり、調査回数が少なくすんだため、全体として旅費の支出が抑えられた。謝礼については、インタビュー調査の数が限定されたことと、2回とも謝礼が不要となったため支出がなかった。また、テープ起こしについては、業者への依頼が2018年度内にできなかったため、支出できなかった。 2019年度については、研究上必要な沖縄調査を十分な回数実施するとともに、インタビュー調査を重点化し、また、テープ起こしについては随時発注を行うことで、適正に研究費を使用していく。
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