COVID-19流行をうけて期間延長を重ねた本研究は、必ずしも捗々しいものではなかったが、今年度を最終年度として区切り、以下の作業に取り組んだ。第一に、『梅林折花集』(以下、同書)全文翻刻校訂、第二に、同書を活用・関連させた関連研究の公表である。 (1)同書でも言及される、14世紀に躍進した臨済宗法燈派の列島規模に及ぶ活動を取り上げた。①伊勢外宮祠官・出雲国造家・紀伊国造家・紀伊湯浅党と法燈派の結びつき、②霊場のひしめく紀伊半島と奥羽の禅僧・勧進聖の接触、②これらを背景として同派に入門し、室町初期の歌壇や寺社縁起に辣腕を振るった花山院長親(耕雲山人子晋明魏)の文化活動の深部に切り込んだ。前年度の業績と同じく、同書をめぐる14世紀から15世紀に展開した中世宗教者の広域的交流網の一端をなすものと位置づけられる。 (2)同書と同じ中世宗教に関する業績として、①料理史研究と肉食禁忌論の架橋を掲げ、狸汁や鹿餅など室町期の魚食・肉食と精進料理の実態を捉えた論考、②室町仏教が社会勢力として抱える統合性と分散性の両面を、公武政権や地域社会との関係から論じた一般向け解説を公表した。①では同書に散見される飲食記事の分析結果を反映させた。②も、同書が記録する時代の大きなうねりを捉えようとする成果といえる。 (3)翻刻した同書の全文校訂は本研究期間中に終えることは叶わなかった。ただし、オンラインないし対面による1か月に数回ペースの会読を継続しており、その準備は着実に進展している。機会を改めて世に問いたいと考えている。
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