研究最終年となる当該年度は、昨年度から引き続いて日本力行会の「移民者」像に関して調査・分析を深めるとともに、高等商業学校について新たな調査を実施し、昨年度までに収集した資料と合わせて総合的な分析を進めた。 第一に、近代日本の代表的な移植民奨励団体である日本力行会の「移民者」像に関する調査・分析である。その会誌である『力行世界』の会員投稿記事を中心に調査を進め、日本力行会の各種移植民教育・奨励事業について、会員たちがどのように受容していたのかある程度把握することができた。 第二に、昨年度実施できなかった高等商業学校に関する調査を行うことができた。1929年、文部省によって長崎・山口・横浜の各高等商業学校に、それぞれ南洋向け・中国大陸向け・南米向けの貿易別科が設置された。これらは、移植民者および貿易従事者の養成を行うものであった。本年は長崎大学附属図書館経済学部分館において長崎高等商業学校に関する資料調査を行い、同窓会誌・学友会誌をはじめとした各種資料を収集・分析した。その結果、貿易別科の教育内容を具体的に知りうる資料は十分に収集することはできなかったものの、他学科を含めた長崎高等商業学校全体に関し、その教育の変遷、学生の生活状況、教育についての学生の認識をある程度把握することができた。 以上、研究期間全体の調査によって、移植民教育機関で提示されていた「植民者」像・「移民者」像の異同と、移植民(希望)者たちによるその受容の一端を明らかにすることができた。
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