研究課題/領域番号 |
18K12517
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
呉座 勇一 国際日本文化研究センター, 研究部, 助教 (50642005)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 史学史 / 戦後歴史学 / 中世史 / オーラルヒストリー |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後歴史学の政治的性格の変遷について、当時の社会情勢を踏まえつつ、史学史的な検討を行うものである。今年度は一年目なので、まずは近年の戦後歴史学研究の全貌を把握すべく、先行研究のサーベイを行った。 近年の戦後歴史学再検証は、戦後歴史学を担った当事者による回顧録、当事者の弟子筋による追悼的評価などに多くを依拠しており、バイアスがかかっていることは否定できない。その点、『証言戦後歴史学への道』(青木書店、2012年)は『歴史学研究 戦前期復刻版月報』『歴史学研究 戦後第1期復刻版月報』などを収録しており、戦後歴史学の中核を担った歴史学研究会の歩みを客観的に解明する上で貴重な資料集である。 もちろん戦後歴史学を単に回顧・顕彰するのではなく、その問題点を指摘する研究は以前からあった。新しい歴史教科書問題に関連して、戦後歴史学最盛期の竹内好・石母田正・上原専禄の言説と「自由主義史観」が実は類似していると説く川本隆史の研究(「民族・歴史・愛国心」、小森陽一・高橋哲哉編『ナショナル・ヒストリーを越えて』東京大学出版会、1998年)はその代表と言えよう。ただ今回文献を渉猟したところ、「戦後歴史学批判」と言いつつ、批判対象は専ら1950年代の民族主義的・愛国主義的な研究であり、それ以降の研究に対しては概ね肯定的であることが明らかになった。その中にあって戦後歴史学の問題意識は一貫して冷戦構造に規定されていたと論じる成田龍一の批判は貴重であり、本研究も学びたい。 本年度は戦後歴史学を代表する古代・中世史家である石母田正について検討した。戦後歴史学批判の主役であった国民国家論の観点からは、一国史観に陥りがちだった戦後歴史学にあってマルクスの国家死滅論に注目した数少ない研究者である石母田は好意的に評価された。しかし本研究は石母田の国家否定的な研究姿勢に潜む問題を浮き彫りにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書には「戦後歴史学を担った代表的研究者の回顧談・回顧録の場合、記憶の改変・改竄の恐れがあるので、安易に利用せず慎重な史料批判を行う。加えて、回顧談の内容を検証するため、その研究者と交流があった70代~90代の中世史研究者への聞き取り調査も行っていく」と記した。聞き取り調査を行う相手については、ある程度想定していたのだが、聞き取り対象予定者の体調不良や住環境・家庭環境の変化などによって聞き取りが実現していない。別人への聞き取り調査など、計画を立て直しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の方法は、一言で述べるならば、戦後歴史学を担った研究者の政治的・社会的発言の分析である。交付申請書に記した通り、二年目は石母田正に加え、戦後歴史学の本流を歩んだ中世史家である永原慶二を中心に検討を行う。
現在、日本の歴史学にマルクス主義が与えた影響について多面的に検討する英文論集(共著)を刊行する企画が持ち上がっており、報告者も企画に参加している。本研究と密接に関わるテーマであるので、本研究の成果発表の場として論集への寄稿を位置づけたい。論集刊行までに執筆者が集まっての勉強会も予定されており、本研究の推進に役立てていく。
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