研究課題/領域番号 |
18K12517
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
呉座 勇一 国際日本文化研究センター, 研究部, 助教 (50642005)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 史学史 / 戦後歴史学 / 中世史 / オーラルヒストリー |
研究実績の概要 |
本年度は、論文「網野善彦とベラ・ザスーリチへの手紙」を執筆し、石母田正や松本新八郎、藤間生大らが主導した民族解放運動である「国民的歴史学運動」から離脱した網野善彦が、どのようにして「網野史学」を形成していったかを再考した。網野は運動からの離脱後、歴史学研究会などの学界とは距離を置き、独学でマルクスの著作を読みなおすことによって自身の学問を確立した、と後年回顧している。旧来の史学史研究はこの網野の回顧談を基本的に信用してきたが、本稿では、網野の学問的変遷を、彼自身が残していた論稿を中心に、時代ごとに再構成することで、後年の回顧談を相対化することに成功した。 また、2019年9月には立命館大学2019年度研究推進プログラム公開シンポジウム「なぜ『歴史』はねらわれるのか? 歴史認識問題に揺れる学知と社会」に登壇し、報告「「自虐史観」批判と対峙する―網野善彦の提言を振り返る」を行い、排外主義・歴史修正主義が蔓延する現状に対処するヒントを、戦後歴史学に対する網野の提言に求めた。 加えて、国文学者の兵藤裕己氏と対談を行った。対談を通じて、太平記研究がいかに戦後歴史学の大きな影響下にあったか、認識を深めることができた。特に、石母田正や松本新八郎といった国民的歴史学運動の主導者たちの問題意識に、太平記研究が今なお規定されていることを確認することができた。 論文「南北朝内乱と『太平記』史観―王権論の視点から―」も上記の問題意識に基づき執筆した。『太平記』の歴史観は戦後歴史学にも親和的だったため、『太平記』の批判的検討は進まず、「史学に益なし」との掛け声とは裏腹に、知らず知らずのうちに南北朝史は『太平記』に呪縛されてきた。論文執筆を通じて、その問題の根深さが明らかになったのは収穫だった。 さらに中世史学者の峰岸純夫氏にインタビューを行い、戦後歴史学の軌跡について、体験談を交えつつ語っていただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の一部をシンポジウム報告という形で公表できた。また研究成果を論文にまとめることができた。昨年度は聞き取り対象予定者の体調不良や住環境・家庭環境の変化などによって聞き取りができなかったが、本年度は聞き取り調査を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の方法は、一言で述べるならば、戦後歴史学を担った研究者の政治的・社会的発言の分析である。三年目は石母田正・網野善彦に加え、戦後歴史学の本流を歩んだ中世史家である永原慶二を中心に検討を行う。
現在、日本の歴史学にマルクス主義が与えた影響について多面的に検討する英文論集(共著)を英米圏で刊行する企画が持ち上がっており、報告者も企画に参加している。前述の「網野善彦とベラ・ザスリーチへの手紙」は本論集に寄稿する予定である。前掲論文は日本語で書いたので、来年度は同論文の英文翻訳を進めたい。論集刊行までに執筆者が集まっての勉強会も予定されており、本研究の推進に役立てていく。
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