最終年度にあたる令和5年度には、ファルムリー版『ヨーガヴァーシシュタ』ペルシア語訳の校訂作業を完了し、校訂テキストの出版に向けて、注の整備や序文執筆などの準備を進めた。また、5月にはフランス社会科学高等研究院マルセイユ・オフィスへの招聘を受けて、本研究課題を遂行して得られた知見を口頭発表した。また、本研究によって得られた知見は、ムガル宮廷で編纂された、インド思想の紹介を含んだペルシア語文献の分析にも活かされ、令和5年度末にアブル・ファズル著『アクバル会典』を対象とした英語論集を編者の一人として出版し、その中で六派哲学というカテゴリーがインド学において定着していく過程を扱った論文を寄せた。 研究期間全体では、ファルムリー版の写本を収集し、テキスト校訂する作業を数年がかりで行うことができた。『ヨーガヴァーシシュタ』ペルシア語訳はどの版も分量が多く、写本の異読を含めた校訂テキストの作成には時間がかかる。本研究課題を通して、未校訂だったファルムリー版を校訂できたのは一つの成果である。また、パーニーパティー版、ファルムリー版、ダーラー・シュコー版それぞれの訳文をサンスクリット原典のテキストと比較した際に、原典で用いられている術語に対して共通の訳語が適用される例と、各々の翻訳間で異なる訳語が適用されている例が明らかになった。これらの知見はいまだ口頭発表での報告にとどまっており、今後論文等での文章化を進めていく。また、ムガル宮廷で編纂された『マハーバーラタ』ペルシア語訳との文体の共通点・違いについて、最終年度に開催された研究会で質問を受けた。この点も今後検討されるべき課題として残った。
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