研究課題/領域番号 |
18K12523
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
橋本 妹里 京都府立大学, 文学部, 研究員 (60814308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 李王家 / 陵園墓 / 李王職 / 孝昌園 |
研究実績の概要 |
2019年度は前年度の研究実績を土台に、韓国での現地踏査と日本での史料収集を行った。 韓国では、ソウル市洪陵の森、南楊州市光陵樹木園と高陽市西三陵で踏査を行った。洪陵の森と光陵樹木園は、現在韓国山林庁が管理する施設であるが、朝鮮総督府の林業試験場を前身としている。植民地期、朝鮮総督府は李王家が所有する陵園墓付属森林を国有地との交換により取得し、そこに林業試験場を設置した。また、西三陵は、京城府(現ソウル市)内の孝昌公園から、朝鮮王朝の墓所孝昌園が移転された所である。 日本では、宮内庁公文書館を訪問し、李王家関連文書をまとめた『王公族録』に収録されている文書のうち、予算・決算関連文書を中心に収集を行った。予算・決算関連文書は1915~1941年までが収められており、この史料からは李王家が森林所有を拡大していく様相と、各年毎の森林経営計画、木材の売却によって得られた収入などについて、具体的かつ詳細なデータを得ることができた。 これら韓国・日本での調査から確認されたのは、李王家が陵園墓付属森林を収入源として重視し、積極的に森林経営を展開していた事実である。植民地期の林業試験場の設置や陵園墓の移転について、王朝の神聖空間の「格下げ」を目的とする朝鮮総督府の政策であったとの見方が、現在韓国では一般的となっているが、実際には李王家が森林経営を目的に、森林の取得と整理を進めた結果であった。 以上の成果を中心に昨年度の研究成果と合わせて、2019年度は2回の発表を行った。立命館大学コリア研究センター主催第12回次世代研究者フォーラムでは「陵園墓管理体制の変遷と李王家の森林経営」のタイトルで、李王職内における陵園墓の森林管理体制の変遷を主として発表を行い、朝鮮学会第70回大会では同タイトルで、『王公族録』収録文書の分析結果を中心に発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、前年度に実施できなかった韓国内での李王家陵園墓のフィールドワークを実施し、また史料収集においても予想を超える多大な成果を得ることができた。一方で、研究成果の整理に時間を要したことから、2019年度に発表を行った研究成果について、年度内に論文の形で発信するに至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、主に李王家が森林を通じた営利活動を展開していた事実に焦点をあて調査・研究発表を実施したが、2020年度は李王家森林の公的性格に焦点をあわせ、事例研究を中心に進めていきたい。 前年度までの研究成果から浮かび上がってきたのは、李王家の森林経営が単純に利潤を追求するだけのものではなく、公的性格も帯びていた点である。それは経営する森林に対する「森林保護区」という名称の使用や、朝鮮総督府山林課職員と李王職森林担当職員の人的交流、総督府が推進する山林政策への協力などの事例から確認される。また、朝鮮貴族会経営の森林を巡って地元住民との間でトラブルが発生した際に、その解決策として李王家が登場する事例も確認された。 そこで李王家の事業の公的性格を具体的に検討すると共に、事例研究を通じてなぜ李王家の事業が公的性格を帯びていたのか、李王家の森林経営に対する同時代人の認識を検討していきたい。それにより本研究の目的である、植民地期李王家の神聖空間に対する同時代的認識について明らかにすることができるであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、特に宮内庁公文書館での史料収集の際に複写費に多大な経費がかかることが予想されていたが、実際宮内庁公文書館では複写は写真撮影のみ可能であったことから、その分の経費がほぼゼロとなり、次年度使用額が生じた。 2020年度は、複写費への使用と合わせて、研究計画で購入予定であったもののうち、2018、2019年度に購入を見送った物品の購入に使用する計画である。
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