研究課題/領域番号 |
18K12523
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
橋本 妹里 京都府立大学, 文学部, 研究員 (60814308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 李王家 / 陵園墓 / 李王職 / 孝昌園 |
研究実績の概要 |
2021年度は昨年度の成果を中心に、10月2,3日開催の朝鮮学会(オンライン)にて「李王家所有林野の形成過程―日本皇室の御料林と比較して―」のタイトルで発表を行った。 植民地期に李王家が所有した林野は、朝鮮王家の墓所である陵園墓に付属する林野、新たに民有地を買収した林野や貸付を受けた国有林、朝鮮貴族会が運営する森林組合普植園が所有した林野、の3つに由来していた。李王職ではこれら林野を利用して、積極的な林業経営を展開した。 本発表では、このように李王職が林業経営を積極的に展開した背景として、ドイツ林学の影響という日本の皇室の御料林形成過程との共通点を指摘した。明治政府は皇室基本財産の安定策として、収益事業用に官林及び官有山林原野を皇室の所有地である御料地に編入し、御料林が形成される。これは、近代国家発展のための支配層の安定的財産として林野が最も適切だとする、留学生を通じて日本が受容した、ドイツ林学の影響によるものであった。留学生らが教鞭をとった東京山林学校(後の帝国大学農科大学)での教育を通じて、この思想は普及する。朝鮮でも卒業生である朝鮮総督府山林課長斎藤音作の慫慂によって、朝鮮貴族会による森林組合普植園が設立される。李王職内でも卒業生である渡辺為吉が、その林業経営を主導した。 但し、御料林と李王家所有林野には、大きな性格の差異が確認できる。御料林は、官林及び官有山林原野を農商務省の所管から分与し、宮内省の所管にするという過程を経て形成されたため、その土地は準公的な性格を帯びていた。一方、李王家所有林野の場合、他の李王家所有地との交換、民有地の購入などを通じて林業経営に必要な林野が形成された。そのため李王家所有の林野は、御料林と比較すれば私的財産としての性格の強いものであったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
Covid-19流行のため、2021年度も国内外への移動が制限されたことから、韓国での現地踏査、日本での史料収集ともに実施できず、前年度の成果を基に朝鮮学会(オンライン開催)にて研究成果の発表をするにとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、取り急ぎ2020、21年度に行うことのできなかった国内での史料収集を進める。また、可能となり次第、韓国での現地踏査、史料収集を実施する予定である。 また、前年度の研究成果からは、李王家の所有地が、私的財産としての性格が強いものであることを明らかにした。しかし、李王職に朝鮮総督府の技師が嘱託として所属し、林業経営に携わったという事実は、李王家の所有林野が持っていた公的な側面を示している。また、「森林保護区」の名称の使用、製炭や松脂採取など、収益があまり期待できない事業の展開からは、李王家、あるいは李王職が、林業経営を「公的」なものと示したかった意図がうかがえる。 このような李王家の所有地の性格と、そこでの李王家/李王職の振る舞いとの間のギャップは、李王家の象徴空間に対する同時代人の認識を明らかにする重要な端緒となり得るであろう。今後の研究では、この点に焦点を当て、これらの背景の詳細を検討できる具体的事例をピックアップし研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度もCovid-19流行により、研究活動が制限されたことから、支出の発生が非常に少額となったため。
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