研究課題/領域番号 |
18K12524
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
海老根 量介 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (30736020)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 上博楚簡 / 楚 / 説話 / 申 / 出土史料 |
研究実績の概要 |
当該年度は、基礎的な研究の段階として、上博楚簡に含まれる楚を舞台としたいわゆる「楚国故事」や、斉や晋に取材した説話史料について、先行研究を収集・整理・参照しながら読解し、釈文づくりを進めた。その過程では清華簡に含まれる鄭・斉・秦・晋など各国を舞台にした説話史料も適宜参照し、考察の手がかりとした。 これらの説話史料の読解を進める中で、先行研究で論争になっている点や問題点が多く浮き彫りとなり、それらの点を検討した結果、新しい知見も少なからず得ることができた。その知見の一端について、2018年8月に中国・広州で開催された国際会議「文字・文献与文明――第七届出土文献青年学者論壇曁国際学術研討会」において報告する機会を得た。その概略については以下の通り。 上博楚簡に含まれる「楚国故事」の一つである『霊王遂申』については、語句の釈読や全体の理解をめぐって研究者間で未だに意見の一致を見ていない。鍵となるのは「王將遂邦」という語句の解釈で、「遂」という行為や「邦」が指すものをめぐって諸説紛々としている。この語句については、文構造から考えて「遂」は「失う」の意味、「邦」は楚国を指し、すなわち楚の霊王が自分の国である楚国を失うことを意味していると考えられ、当該篇全体もそれに沿って理解すべきであることを指摘した。 なお、当該報告については、会議当日に寄せられた意見を踏まえて修正した原稿を、後日正式に出版される予定のこの学術会議の論文集に投稿し、審査を経て掲載が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、上博楚簡に含まれる楚を舞台としたいわゆる「楚国故事」や、斉や晋に取材した説話史料について、読解と釈文づくりを進めることができた。また読解の過程で得られた新しい知見についても国際会議において報告し、研究を論文としてまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに作成した基礎的な釈文を土台にして、実証的研究を進めていきたい。具体的には、上博楚簡に含まれる説話史料のうち、主に『左伝』などの伝世文献と対照できる篇について俎上に載せて、伝世文献との詳細な比較を行い、両者の共通点と相違点について分析を進める。その作業を手がかりに、上博楚簡の説話史料と伝世文献が互いにどのような関係にあるのか、また『左伝』のような多くの個別の説話を組み合わせて構成される書籍がどのように編纂されていったかを考察したい。以上の内容については国内外の学会で報告するほか、学術雑誌に論文を投稿し、積極的に公表していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は基礎的な釈文の作成と内容読解に重点的に取り組んだため、予定よりも研究費の使用額が少なくなった。次年度は本研究課題の最終年度に当たるため、国内外での学会報告や論文投稿などをより積極的に行い、研究成果を公開していくことを計画している。次年度に繰り越した金額はそれに向けた関連資料の収集・整理のための費用、および学会参加のための旅費や論文校正・ネイティブチェック代などに充てたい。
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