本研究では、上博楚簡に含まれるいわゆる「楚国故事」を中心に、新出楚簡中に見える説話史料について研究を進めてきた。最終年度にあたる2022年度は、これまでの成果をまとめ、アウトプットする作業を行った。 まず、上博楚簡『鄭子家喪』・『霊王遂申』・『申公臣霊王』・『荘王既成』・『平王与王子木』について、本研究の成果や先行研究を踏まえながら概括した。特に『鄭子家喪』や『申公臣霊王』は、対応する内容を持つ『春秋左氏伝』と関連づけながら研究が進められている。しかし、これらと『春秋左氏伝』との間には異なる点もあり、その相違点にこそ着目すべきである。この内容は学習院大学史学会大会において講演し、その後、講演録として『学習院史学』第61号で公表されている。 次に、『申公臣霊王』と『春秋左氏伝』の違いについてさらに追究した。両者とも楚の霊王と部下の対話を収録し、多くの部分は対応関係にある。しかし、『申公臣霊王』は『春秋左氏伝』には見られない両者の和解場面がある、話題が手柄争いに終始している、などの違いがあり、これらは両者の編纂の目的に起因すると考えられる。また、部下が『申公臣霊王』では申公、『春秋左氏伝』では陳公となっているという重大な相違点がある。『申公臣霊王』は『春秋左氏伝』の取材源となったような説話であり、『春秋左氏伝』が取り込む際に申公を陳公に誤ってしまった可能性が考えられる。こうした誤りは楚簡中の用字習慣を知らない地域もしくは時代における『春秋左氏伝』の成書を窺わせるものである。この内容は研究会での報告を経て論文としてまとめ、「上博楚簡『申公臣霊王』と『左伝』の成立について」として『東洋文化研究所紀要』第183冊に掲載することができた。 また、主に「楚国故事」について取り上げて研究した著作の書評をする機会に恵まれ、本研究にも裨益するところが大きかった(2023年7月刊行予定)。
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