本研究では上博楚簡中に含まれる春秋時代の楚を中心とする各国に関する説話を取り上げ、歴史学的観点から検討した。これらの説話には登場人物の会話など史実と見なしがたい内容も含まれているが、説話の基本的なプロットは歴史的な事件に基づいて組み立てられており、史料批判を経て歴史学の研究に役立てることも可能であることを示した。また、これらの説話には『春秋左氏伝』と対応する内容も少なからず含まれている。従来の研究では両者の類似点ばかりが指摘されているが、本当に注目すべきは両者の相違点である。本研究ではその相違点を手がかりにして『春秋左氏伝』が先行する説話をどのように取り込み、成書されていったかを考察した。
|