本研究は①南北朝の史書編纂における「事実」の意図的忘却、②唐初の正史編纂事業における公定歴史像の創出、③北朝系官僚による一族の歴史の創出の三つの観点から、隋唐代における南北朝歴史像の忘却・創出過程の解明を目指している。
2021年度は、①・②の観点から以下の研究を行った。 ①については、唐代における北周の六官制の忘却過程について、検討を進め、論文化を進めている。また、『魏書』において意図的忘却が図られた北魏の「可汗」号について検討を進め、「北魏と柔然の君主号―公文書・官撰史料・墓誌の君主表記」と題して、明治大学アジア史料学研究所2021年度研究シンポジウム「公文書システムのアジア史Ⅰ」(於東京都・明治大学、2022年3月20日)にて口頭発表を行った。 ②については、北周の武帝・宇文護の歴史像の形成過程について、唐初に編纂された正史である『周書』と隋・唐代の諸史料(『周斉興亡論』・『帝王略論』・石刻史料など)との比較をより厳密に行い、論文化を進めた。また、南朝梁の武帝とその側近の歴史像の形成過程について、正史と梁・陳・隋の諸史料との比較検討を深めて論文化を進めている。 さらにこれまでの研究成果(特に①)を反映した『南北朝時代―五胡十六国から隋の統一まで』(中公新書)を刊行した。
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