研究課題/領域番号 |
18K12530
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
大澤 肇 中部大学, 国際関係学部, 准教授 (00469636)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日中戦争 / 傀儡政権 / 対日協力 / 政治教育 / 動員 / 教科書 / 汪兆銘 |
研究実績の概要 |
本年度は、家庭の事情により当初の計画を変更し、復旦大学、華東師範大学および香港中文大学中国研究サービスセンターなどでの史料調査を行った。また上記図書館および日本国内において調査収集した史料を、これまでの研究に加えて補充することで、査読をパスし、東洋史研究会が編輯する学術雑誌『東洋史研究』第77巻4号に査読付き学術論文「汪兆銘南京国民政府下における学校教育の展開」を掲載することができた。
当該論文においては、これまで論じられてきた汪兆銘南京国民政府の(一定程度の)自立性・自立志向について、これまで日本語論文では使われてこなかった汪兆銘政権の教科書や雑誌の言説などから、それらを改めて実証するとともに、汪兆銘政権における教育事業の意味を、「政権の正当性獲得のための政治宣伝」のみならず「政権の基盤それ自体」でもあるということを実証した。これにより、日中戦争・日中関係において大きな問題である汪兆銘政権研究を前進させることができた。さらに、汪兆銘政権の教育事業を明らかにすることで、南京国民政府や重慶国民政府と比較することができ、それまでの南京国民政府から継承したもの、断絶したものを明確化させることができた。これにより中国近現代教育史の大きな流れを明らかにできるとともに、研究計画に記した「近現代中国における近代学校教育による国家統合についての機能」について、1940年代前半における状況を明らかにすることができた。
また上記以外に、調査で取得した情報をもとに研究発表も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともとの研究計画通りではないにせよ、初年度は中国現地での史料調査を無事行うことができ、査読付き論文を出版することができたため、「おおむね順調に進展している」と自己評価を下した。
今年度の史料収集では、出版に至った論文に関する史料の他に、史料情報面において、以下のような成果があった。まず香港中文大学中国研究サービスセンター所蔵の「内部参考」についてはデータベース化され、センター内で利用可能である。このデータベースでの検索結果を見た結果、外販されている同センター作成のデータベースに収録されていない「内部参考」の記事があることがわかった。また復旦大学ではアーカイブを含む貴重なコレクションがあることがわかった(但し、2019年よりデジタル化のため一時的に利用が難しくなった)。さらに華東師範大学図書館には、数百冊レベルの「自費出版による自伝」コレクションがあることを発見した。これをうまく利用すれば、一般庶民の教育に対する考え方やキャリアパターンの分析が可能となり、中国研究・中国近現代教育史・中国近現代社会史研究の新たな手法の確立が期待できる。
あわせて、上記三機関(香港中文大学中国研究サービスセンター、復旦大学、華東師範大学)が所蔵する中国近現代関係資料の特徴もある程度つかめたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本来第三年度に予定していた上海・香港での史料収集を行ってしまったため、来年度は、初年度に実施できなかった江蘇省の蘇州・昆山などの地方レベルの図書館を訪問し、史料収集を行う予定である。再来年度は、もともとの研究計画で第二年度に行う予定であった四川・南京での史料収集を行う予定である。一方、華東師範大学図書館には、今年度の調査で豊富な史料(特に自費出版による自伝コレクション)があることがわかり、どこかの時点で再訪し、再度史料収集を進めたいと考えている。
一方、2017年から北京大学・清華大学・重慶師範大学などに所属する中国人研究者が「国家転覆容疑」などで拘束・停職処分されているという状況があり(このうち1名は中国近現代史の研究者である)、中国大陸における研究代表者のヒアリングによれば、中国当代史(現代史)に関する論文の出版は難しくなっており、史料収集もアーカイブだけでなく中国人外国人問わず非協力的になる機関が増えているとのことであった。このように中国での史料開放・史料収集状況が悪化するばかりでなく、拘束される可能性も出てきた。以上から安全のため中国国外(具体的には台湾やアメリカなど)において中国地方文献の調査・収集の実施も考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関(中部大学)の会計システム上の問題で、2019年3月中・下旬に実施した研究および海外調査に係わる費用が2018年度の使用額に含まれていないことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。また海外調査期間に従事した時間が家庭の事情により短くなってしまったこと、多忙のため予定していた文献資料や物品の購入ができなかったことも一因である。次年度使用額の半分以上は上記費用(2019年3月の調査費用)で消費されるが、余った分については、文献資料や物品の購入、第二年度における海外調査期間の延長などに使用する予定である。
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