研究課題/領域番号 |
18K12530
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
大澤 肇 中部大学, 国際関係学部, 准教授 (00469636)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中華民国史 / 日中戦争 / 教科書 / 地域社会 / 国家-社会関係 / 学校教育 / 反日教育 / 中国近現代史 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、中国において「地方文献」(県などの地域社会において独自に編集・発行された地域社会の様相を示した文献のこと)と呼ばれる新史料を発掘・駆使し、これまで本格的に考察されたことのない、近現代中国、特に1930~50年代の中国において、国家が近代教育を普及、あるいはそれに介入することで、地域社会が国家にどのように統合されていったのか(あるいは統合されなかったのか)という問題を、主として中国江南知己の農村を対象として分析する、という点に独自性がある。 本年度は、上記研究計画に基づき、夏期は四川省図書館または四川省档案館(アーカイブ)など四川での資料調査を、春期は南京図書館、中国第二歴史档案館など南京での資料調査を予定していた。しかし夏期は図書館・アーカイブの利用の目処がつかず、アメリカでの資料調査(ハーバード大学など)に予定を変更し、資料収集を行った。また春期はCOVID-19の流行によって、海外への渡航ができず、資料調査自体を断念せざるを得なかった。 なお、この報告書を書いている2020年5月時点で、COVID-19の流行が収まる見込みやワクチンの開発などもなく、今後長期間にわたって海外調査自体を再考せざるをえない可能性が出てきた。したがって、本年度および来年度以降の資料調査のスケジュール・目的なども、今後再調整する必要があるだろう。また本年度においては下記のような研究成果を挙げた。 (1)論文集共著:大澤肇「教育」、川島真・中村元哉編『中華民国史研究の動向』晃洋書房、2019年4月 (2)研究発表:大澤肇「日本人は中国の教育をどう見てきたのか―民国期を中心に」、日中関係若手研究者フォーラム(於上海・復旦大学)、2019年10月
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来、本研究課題は、21世紀初頭における中国現地におけるアーカイブの開放によって、日本のみならず世界における中国近現代史研究が、実証的な取り組みが可能になってきたにもかかわらず、中国における習近平体制の成立により、アーカイブが逆に閉鎖的になっていったという事態に対して、「地方文献」の発掘・収集・整理・アーカイブ史料や公刊史料との突き合わせによって、これを乗り越えることを企図していた。 本研究課題採択直後も、上記の事態は改善しないばかりか、外国人研究者が訪中し、資料所蔵機関への訪問を打診しても断わられる・無視されるという状況は変わらなかった。2019年夏期はそのため当初の予定にあった中国四川ではなくアメリカに史料収集へ赴くこととした。 さらに2019年秋期には事態はより悪化し、ついには、北海道大学において中国近代政治史の研究に従事する日本人教授が、中国の国家安全機関によって拘束されるという事件も発生した(なお、この事件は、申請者の上海での国際シンポジウムでの発表から帰国して1週間後に公表された。上海滞在時にはこのような雰囲気をまったく感じることがなかった)。この事件が意味することは、アーカイブ・図書館などが利用できないばかりか、中国に短期滞在して史料を調査・収集すること自体が、身体的に拘束される可能性があるというリスクである。 したがって、本研究課題のように、中国に短期滞在して史料を調査・収集することを主目的としていた研究課題は、リスク回避のため、現地での史料収集を控えざるをえなくなり、申請時の研究計画を見直さざるをえなかった。加えて2020年1月から、中国武漢でCOVID-19ウイルスの流行が始まり、海外における史料調査ができなくなってしまい、本来の調査計画に狂いが生じてしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
上記【研究実績の概要】および【現在までの進捗状況】に記したように、本来、本研究課題は、21世紀初頭における中国現地におけるアーカイブの開放によって、日本のみならず世界における中国近現代史研究が、実証的な取り組みが可能になってきたにもかかわらず、中国における習近平体制の成立により、アーカイブが逆に閉鎖的になっていったという事態に対して、「地方文献」の発掘・収集・整理・アーカイブ史料や公刊史料との突き合わせによって、これを乗り越えることを企図していた。 しかしながら2019年秋期には事態はより悪化し、ついには、北海道大学において中国近代政治史の研究に従事する日本人教授が、中国の国家安全機関によって拘束されるという事件も発生した(なお、この事件は、申請者の上海での国際シンポジウムでの発表から帰国して1週間後に公表された。上海滞在時にはこのような雰囲気をまったく感じることがなかった)。この事件が意味することは、アーカイブ・図書館などが利用できないばかりか、中国に短期滞在して史料を調査・収集すること自体が、身体的に拘束される可能性があるというリスクである。 当初は、上記のリスクに対して、中華人民共和国政府の支配の及ばない、アメリカ・台湾・香港などでの史料調査・収集に移行し、当初の研究計画を遂行しようと考えていた。しかし2020年1月から、中国武漢でCOVID-19ウイルスの流行が始まり、そもそも長期間にわたって海外における史料調査が遂行できない事態が発生している。これに対しては、書店や図書館などを通じ、公刊された地方文献の分析にターゲットを変更することで、当初の研究計画の遂行ができるかどうか、フィージビリティ・スタディの試行を計画している(2020年5月末現在)。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、春期(2020年2-3月)に予定していた海外史料調査・収集事業が、新型コロナウイルス(COVID-19)流行により実施できず、中止したためである。 そのため今年度(2020年度)、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が収束する、あるいは画期的な治療法が開発されれば、2019年度春期に予定していた調査を、2020年夏期あるいは2021年春期にずらして実施する予定である。ただし、今年度(2020年度)中に、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が収束しない、あるいは画期的な治療法が開発されなかった場合、海外へ渡航しての調査が不可能となるため、(1)各種大学図書館など、日本国内の史資料所蔵機関における公刊地方文献の調査、あるいは(2)科研費を使用して公刊地方文献のILLまたは購入によって入手し、史資料の調査・分析に切り替える予定である。 もともと予定していた2020年度の調査にしても、実施が不可能な場合、上記に準じた措置をとる予定であるし、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行と治療方法の開発状況によっては、本研究計画の変更自体を再検討することも視野に入れている。
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