研究課題/領域番号 |
18K12534
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小滝 陽 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (00801185)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 難民 / 国際機関 / 福祉思想 / 冷戦 |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次世界大戦から1960年代にかけて、欧州・アジア・アメリカ合衆国で実施された一連の人道援助事業を分析し、「自助」と「自立」を求める福祉思想のトランスナショナルな形成過程を明らかにする。2018年度は、(1)キューバ難民のアメリカ受入時における福祉プログラムの展開に関する一次史料の収集および分析、(2)世界大戦後の欧州およびアジアで国際機関が実施した、移民・難民の労働力としての送出事業に関する一次史料の収集および分析を主たる課題とした。 (1)について。2018年8月にマイアミ大学(フロリダ州)文書館およびジョンソン大統領図書館(テキサス州)を訪問して、連邦政府機関の史料を閲覧し、キューバ難民をマイアミから移住させ、経済的に自立させようとした難民専門家の意図を分析した。その結果、欧州における国際的な難民移住事業の経験が、キューバ難民に自立を促すための就労強制プログラムに継承され、アメリカ国内における福祉改革の動向にも影響を与えたことが確認された。なお本件の成果を、2019年6月と11月の学会において、口頭発表することが決定している。 (2)について。国際機関による欧州からの難民送出事業の実態とその経験のアジアへの伝播について把握するべく、2019年2月に国際連合文書館(ニューヨーク州)を訪問し、国際難民機関(IRO)と国連韓国復興機関(UNKRA)の史料を収集・分析した。その結果、この時期の難民支援が、単に難民の生存と福祉を向上させるための人道援助事業ではなく、労働力資源の国際的な再分配と難民個人の「自立」を狙いとした人口移動プログラムであったことを確認した。本調査による成果の一部は、直後に行われた国際学会の席上、関連する研究成果と合わせて発表し、他の研究者からのコメントを受けた。また、2019年6月の国内学会と11月の国際会議でも、本調査の成果の一部を発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
史料・文献の収集はおおむね順調に進捗したものの、調査の過程で、IROの史料が異なる二つの文書館に分有されていることが判明した。すでに調査を終えた国連文書館のほか、新たに、パリのフランス国立公文書館が所蔵するIRO文書を調査する必要が生じた。 これまでの史料調査と分析により、IROの上層部が欧州難民の移住を支援した際の意図や狙いは明らかになりつつある。しかし、より現場に近いレベルの自立支援において、どのようなアプローチが、いかなる福祉思想に基づき採用されたのかを検討する必要があり、そのためには、2019年度夏以降に、フランス公文書館の史料を収集・分析しなければならない。なお、IROに関する研究成果は、すでに一部を学会報告の形で発表し、2019年度にも発表する予定だが、研究成果の全体像を論文の形で示すことは、2019年度以降の課題となる。その際、IROの後継機関であるヨーロッパ移住政府間委員会(ICEM)についての史料収集・分析(於ジュネーヴ)も必要となるため、両組織の史料調査を合わせて実施できるよう、日程を調整している。 なお、調査・分析の実施順序に変更が生じている。計画段階ではプロジェクトの3年目に実施する予定だったキューバ難民支援についての調査を、研究分担者として参画している基盤研究(C)の進捗に合わせて、2018年度に前倒し実施した。さらに、IRO・ICEMに関する追加の史料調査を2019年度に実施する必要が生じたため、当初の計画では同年度に行う予定だった、1950年代のインド・パキスタンにおける国連の自立支援プログラムに関する史料調査を、一部、2020年度の実施とする。プロジェクト全体から見て大幅な遅延はない。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に実施したキューバ難民支援に関する史料調査は順調に推移し、多くの知見をもたらした。ただし、その成果発表は2019年度に持ち越された。上述したように、2019年度には学会での口頭発表が2件予定されているほか、国内学会での報告に際しては、事前に研究成果の詳細をまとめた論文のウェブ公開を実施する。2020年度以降、その加筆修正版の出版を目指す。 また、2019年度には、当初の計画に含まれなかったIROとICEMに関する追加の資料調査を一括して実施し、効率的な資料の収集・分析を進め、1940年代末から1960年代初頭の欧州における「自立」を求める福祉思想の形成過程を、国際機関の活動から明らかにする。 なお、2019年度は、援助の現場で難民に直接「自立」を求めた福祉専門家の動向を分析するため、国際救援委員会(IRC)の史料(カリフォルニア州スタンフォード大学フーヴァー研究所所蔵)を調査・収集する。IRCは、欧州、キューバからの難民や、南ベトナムの国内避難民に対する援助のほか、1970年代後半からのインドシナ難民援助にも参加して、戦後の国際人道援助を底辺で支えた団体である。欧州・合衆国・アジアの各地域で実施された国際的な人道援助事業を通して、「自立」を旨とする福祉思想が形成され、それがアメリカ国内にも還流する経路を明らかにするためには、IRCの活動についての調査と分析が不可欠である。 「現在までの進捗状況」で述べたとおり、インド・パキスタンでの国連福祉プログラムに関する調査・分析は、2020年度に延期する。ただし、予備的な文献収集や史料調査は、可能な限り迅速に進める。また、十分な史料が取得できない場合など、不測の事態にあたっても、アジアにおける人道援助と「自立」を促す福祉思想の関係を考察できるよう、朝鮮戦争後の韓国における国連・アメリカなどの人道援助について予備調査を行う。
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