最終年度の研究成果は大きく分けて2点あり、一つは、第二次世界大戦後の欧州難民救援に端を発する福祉思想の連鎖の結節点として、朝鮮戦争後の韓国における避難民支援があったことを、文書館調査により実証的に明らかにしたことである。特に、朝鮮半島南部の避難民支援において、アメリカの人道援助団体が実施したひとり親女性に対する小規模融資のプログラムは、現代のマイクロファイナンスにも通じる女性の自立プログラムとして先駆的なものであったことを突き止めた。二つ目には、こうした冷戦期における難民女性向けの自立プログラムの集大成ともなった、南ベトナムでの女性避難民向け自立プログラムの展開を跡づけ、論文として発表した。これにより、第二次世界大戦、朝鮮戦争、さらに、前年度までに明らかにしたキューバ難民支援の中の女性向け自立プログラム、そして、ベトナム戦争という、20世紀後半の事象の連鎖を通して、ジェンダー化された福祉思想の歴史的発展過程が浮かび上がった。 こうした最終年度までの実績を一望した時、本研究期間全体の成果は大きく以下の2点にまとめられる。第一に、冷戦期の開発援助と西側諸国の利害の結びつきを強調する先行研究に対し、二次大戦直後の欧州では、ドイツの占領と再建に関する占領当局の立場から相対的に独立した、福祉分野の国際交流が存在したことを示した。出身地域を異にする専門家の接触によって媒介された福祉思想は、国境を越える福祉思想の連鎖とその影響下での福祉政策の展開を促したのである。 さらに、上記の思想連関において、個人と家族の経済的自立に重きを置く思想が中心的な位置を占めており、米国や南ベトナムにおいて公的扶助を受給する女性に就労を促す政策に結実したが、これらの政策を、20世紀末の米国におけるワークフェア政策の制度的原型として歴史的に位置づけたことが、本研究の第二の意義であった。
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