研究課題/領域番号 |
18K12535
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
左近 幸村 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (30609011)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロシア史 / 海事史 / グローバルヒストリー |
研究実績の概要 |
帝政ロシアを代表する汽船の組織だったロシア義勇艦隊の歴史をこれまで研究してきた。それをもとにロシアの海運政策の転換点を日露戦争と1905年革命の後と捉え、その先駆者としてのヴィッテの意義を強調していたが、ロシア商船など他の汽船の動向も視野に入れることにより、その見方に修正を加えることになった。 すなわち、ロシア政府が、海運のような経済活動を通じた国際的影響力の保持に関心を持つのは、1905年後であり、日露戦争と1905年革命のインパクトを強調していたが、すでに1903年には海運発展の重要性がヴィッテ以外の政府要人にも意識されていたことが、当時の外資の海運参入をめぐる政府内の議事録から明らかになった。しかし、その議論も結論としては外国資本の流入を強く規制するなど、ロシア政府が最終的に経済に対し強い規制を敷いたことも事実である。こうした漸進的変化をどのように整理するかは、今後の課題であると言える。 また、国際的に見てもほとんど研究されていないロシア商船の設立過程とその後の発展について同時代の文献をもとに研究を進め、19世紀後半に黒海や東地中海にロシア商船の航路網が張り巡らされていく過程を把握することができた。近年、ロシア帝国とオスマン帝国の関係史や、それを取り巻く国際環境の研究が注目を集めているが、政治外交史的なものが多く、経済関係、それも海運に着目したものは少ない。東地中海の海運については、ギリシアのGelina Harlaftisらが研究を精力的に進めているが、ロシアへの言及は乏しい。本研究はこうした穴を埋め、海運の観点から新たな国際関係史を築くことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
史料の読み込みや先行研究の収集は行ったものの、本の執筆や編集作業により現地での史料収集ができなかったこと、研究報告が19年1月に大阪大学で開催されたAsian Association of World Historians Congress のみであること、論文の公刊ができなかったこと、本の刊行にあと1年ほどかかりそうなことから、「やや遅れている」とした。ただし19年1月の英語での報告は、「研究実績の概要」で述べた成果を反映させることができ、英語の論文集に寄稿して国際的に発信される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
4月の終わりに、ロンドンのThe National ArchivesとThe British Libraryに行き、英露関係やスエズ運河に関する史料収集を行った。これをもとに、6月末に東京大学で開かれる The 10th East Asian Conference on Slavic Eurasian Studiesでロシア経済史のパネルを組織し、ロシア商船の設立とロシアの対中近東政策についてまとめた報告を行う。そこでの出来を踏まえ、報告原稿をもとにした論文をどこかに投稿するか、パネルを来年モントリオールで開かれるthe ICCEES 10th World Congressに持っていくために発展させられるかを、考える。また、本年度は本を執筆にも力を入れ、ロシア海運史の意義を広く問うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終的な残額が317円であり、それに見合った必要なものがなかったので。
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