研究課題/領域番号 |
18K12536
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今井 宏昌 九州大学, 人文科学研究院, 講師 (00790669)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 義勇軍 / ナチズム / コミュニズム / 反ファシズム / ヴァイマル共和国 / 人民戦線 / 暴力 / 経験史 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヴァイマル初期のドイツで活動した志願兵部隊・義勇軍の経験と、そこで培われた「暴力を辞さないアクティヴィズム」が、戦間期全体を通じ反ファシズムの主体形成にどのように作用したのかを検討することにより、暴力経験から大量殺戮への道を直線的・単線的に導き出そうとする近年の「暴力のヨーロッパ史」研究の再考を促し、ひいては戦間期という時代の再評価に寄与することを目的としている。具体的には、義勇軍出身のナチまたは右翼でありながらも、最終的にドイツにおける反ナチ抵抗運動、あるいはフランス・スペインにおける人民戦線への支援に携わった人びとの経験を歴史学的に分析する。 初年度である2018年度は4月末から5月頭にかけて、ベルリン州立図書、ヴァイマル州立中央文書館、イェーナ大学文書館、ブーヘンヴァルト強制収容所記念碑を訪問し、義勇軍関係史料や対象となる人物の個人史料を調査・収集したほか、現地の研究者との面談をおこなった。また関連文献も網羅的に収集し、研究状況の把握に努めた。その成果の一部であるボード・ウーゼ研究については、7月のトーマス・マン研究会、11月のヨーロッパ地域史研究会で報告した。具体的には、ヴァイマル初期におけるウーゼの義勇軍経験が、それ単体では彼の思想と行動に強固な基盤を与えたとは言い難く、むしろヴァイマル末期のラントフォルク運動の経験と複合することによって、ナチ党(NSDAP)からの離反とドイツ共産党(KPD)への合流という姿勢を形づくった点を明らかにした。 また本研究で得た知見をもとに、「経験史[Erfahrungsgeschichte]」の方法論的な概要を示した共著1冊、ヴァイマル共和国やナチズムに関する書評2本をそれぞれ執筆し、またナチ「古参党員」に関するドイツ語論文1本を翻訳し発表した。なお2019年度中にヴァイマル共和国の現在的意義を論じた共訳書を刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は史料や文献の調査・収集と研究状況の把握を優先的におこなったため、論文の執筆・投稿までには至らなかったものの、その成果は研究報告のみならず、共著や書評、翻訳論文といった個別の成果へとつながった。 なかでも翻訳論文であるパトリック・ヴァーグナー「「古参闘士」の最後の戦場 ―第二次世界大戦最後の数ヶ月におけるナチ活動家の孤立・共同体形成・暴力―」は、第二次世界大戦末期のナチ活動家らが自らの「闘争期」経験をリフレインし、新たな「戦後」を展望しながら殺戮行為に及ぶさまを明らかにした研究であり、「経験」のもつ歴史的な重層性と重要性を考えるうえで重要な成果である。 また2018/19年はドイツ革命・ヴァイマル共和国建国100周年にあたり、ドイツ本国を中心として大量の関連文献が刊行されたため、それら最新の研究成果を網羅的に収集できたことは、研究基盤の確立・整備という点で大きな意味をもつ。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度以降は、2018年度に確立した研究基盤にもとづきながら、当初の計画にしたがう形で研究を進める。 まずは義勇軍出身のナチでありながら、ヴァイマル末期にコミュニストへの「転向」を果たしたボード・ウーゼを題材にした論文を完成させ、学術誌に投稿する。またヴァイマル共和国建国やヴェルサイユ条約調印100周年を記念するシンポジウムに登壇し、この間の研究成果について発表する。さらには研究のさらなる発展のため、ドイツ各地の文書館・図書館への訪問を通じた史料の調査・収集を継続し、いまだ不明な点が多いヴァイマル期のアクティヴィストに関する実態解明をおこなう。 またこれらの成果については、すでに単著として発表することが決定しているため、その執筆作業も並行しておこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年夏にイギリス・シェフィールド大学からベンヤミン・ツィーマン氏を日本に招聘することが、2018年秋に決定した。当初予定していた2019年度予算ではツィーマン氏招聘にかかる費用を賄うことができないと判断したため、急遽出費を制限し、敢えて次年度使用額を生じさせた。
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