研究課題/領域番号 |
18K12536
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今井 宏昌 九州大学, 人文科学研究院, 講師 (00790669)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 義勇軍 / ナチズム / コミュニズム / 反ファシズム / ヴァイマル共和国 / 暴力 / 経験史 / 人民戦線 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヴァイマル初期のドイツで活動した志願兵部隊・義勇軍の経験と、そこで培われた「暴力を辞さないアクティヴィズム」が、戦間期全体を通じ反ファシズムの主体形成にどのように作用したのかを検討することにより、暴力経験から大量殺戮への道を直線的・単線的に導き出そうとする近年の「暴力のヨーロッパ史」研究の再考を促し、ひいては戦間期という時代の再評価に寄与することを目的としている。具体的には、義勇軍出身のナチまたは右翼でありながらも、最終的にドイツにおける反ナチ抵抗運動、あるいはフランス・スペインにおける人民戦線への支援に携わった人びとの経験を歴史学的に分析する。 2020年度は本来ならば最終年度にあたり、ドイツでの関係史料の調査・収集と現地の研究者との面談を通じ、研究の総まとめをおこなう予定であった。しかし周知のとおり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大によって渡独が不可能となったほか、授業のオンライン化をはじめとする各種対応に追われ、研究遂行に著しい困難が生じた。結果として2020年度内での研究の総まとめは困難と判断し、期間延長申請をおこない、承認された。 しかしそうした中にあっても、研究成果の発表は着実に進んだ。まず論文としては、全国誌に2本が掲載されたほか、帝政期ドイツの軍事言説に関する書評1本、第一次世界大戦初期のドイツ軍による残虐行為に関する翻訳論文1本を発表することができた。さらに研究報告についても、コロナ禍により学会・研究会が中止となり、報告機会が激減する中にあって、計2回おこなうことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は前年度までの史料・文献の調査・収集と研究状況の把握をもとに、論文2本、書評1本、翻訳論文1本を発表し、研究報告を2回おこなった。 論文「戦間期ドイツの「赤い伯爵」における義勇軍経験」(『歴史評論』843号掲載)では、クラウス・テーヴェライト『男たちの妄想』で提起された〈兵士的男らしさ〉の問題を、コミュニストへの「転向」を果たした義勇軍出身者アレクサンダー・シュテンボック=フェルモアの自伝的小説『志願兵シュテンボック[Freiwilliger Stenbock]』(1929年)を事例に再考した。 また論文「ドイツ革命期における「武装せる市民」 ―ハレ住民軍を事例に ―」(『軍事史学』56巻4号掲載)では、ドイツ革命期(1918/19年)にプロイセン州ザクセン県の工業都市ハレで編成された「ハレ住民軍[Einwohnerwehr Halle]」に注目し、第一次世界大戦前から政治的ラデイカリズムの拠点、左翼の牙城が形成されていたこの地において、市民層が「政治の野蛮化」と呼びうる現象に必ずしも寄与しなかった点を明らかにした。 ただし、義勇軍出身者にしてナチからコミュニストへの「転向者」であるボード・ウーゼを題材とした論文の完成には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
期間延長申請をおこない、承認されたため、2021年度を最終年度として研究の総まとめをおこなう。具体的には、ボード・ウーゼ、リヒャルト・シェリンガー、アレクサンダー・シュテンボック=フェルモア、エルンスト・オットヴァルトといった義勇軍出身のコミュニストたちがヴァイマル末期に展開した言論活動について、「経験史[Erfahrungsgeschichte]」の観点から考察し評価をおこなう。その際、義勇軍戦士という過去とコミュニストという現在、そして予期された未来からなる「経験空間[Erfahrungsraum]」の中で、彼らの言論がどのように紡がれ、またそれを通じてどのような「経験共同体[Erfahrungsgemeinschaft]」が構築されたのか。さらにはそうした動きがコミュニズムやナチズム、果てはヴァイマル末期の政治文化とどのような関係を切り結んでいたかが論点となる。 最終的にはこれらの成果を、個別の論文(日本語・ドイツ語含む)、そして単著としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、ドイツでの調査が不可能となったうえ論文執筆が滞ったため、延長をおこなった。2021年度は調査のための旅費と論文校正の人件費に費用を当てる予定である。
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