研究課題/領域番号 |
18K12540
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長谷川 敬 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90781055)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルプス山脈 / 峠 / 季節労働 |
研究実績の概要 |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の流行によって本研究の遂行に著しい影響が生じた。すなわち、2020年3月に実施予定であった冬季のモンジュネーヴル峠、ならびにフランス側麓村落のブリアンソンと、近隣都市・村落と位置付けたアンブランとガプの現地調査(主に、冬季の峠の環境状況の確認、考古学調査報告書の閲覧、そして博物館収蔵品の調査)が、国内外での同感染症の流行拡大のために実施延期となり、さらに、2021年3月も実施が叶わなかったためである。大・小サンベルナール峠とその麓村落、ならびに近隣都市については、既に現地調査を終えているが、この両峠とその周辺地域との比較対象としてモンジュネーヴル峠と周辺地域を現地調査することは重要であり、その調査が実施不可となった以上、特筆すべき研究成果を得ることは極めて困難であった。さらに、オンライン授業の準備という日常的な重い負担によって、国内での文献・史料調査にも大きな支障があったため、この方面での成果も、2019年度までのそれと比較して乏しいものにならざるを得なかった。しかし、そのような状況下でも、最低限の研究の進展は得ることが出来た。具体的には、「ゾミア」論ならびに同論に依拠した研究手法の知見を得られたことである。これは、東南アジア内陸部の山岳地帯が、国家権力の影響が及ばない一種の「避難地帯」として独自の社会的発達を遂げた現象に関する研究から拡大発展したアプローチであり、研究代表者が分担者として参加する【基盤研究A「前近代海域ヨーロッパ史の構築:河川・島嶼・海域ネットワークと政治権力の生成と展開」(代表者:小澤実、立教大学)の一環で触れることのできたものである。本研究においても、峠の沿道社会は「ゾミア」的性格を有し、それは冬期間においては特に顕著である。したがって、同観点からのアプローチは本研究の推進においても有益であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実績の概要】でも記したように、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行のため、2020年3月、2020年夏季、ならびに2021年3月に実施を検討していたフランス現地調査をすべて中止せざるをえなかったことから、進捗の遅れは否めない。また、国内における文献・史料調査についても、2020年度は不慣れなオンライン授業への対応を迫られたために、授業準備に要する時間が例年よりも増大し、結果として文献・史料調査に費やすことが可能な時間が縮減したことから、研究遂行に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
国内外の新型コロナウイルス感染症の流行状況、ならびに同感染症に対するワクチンの接種状況から判断すると、2021年度についても、フランスでの現地調査実施は極めて困難な状況である。したがって、現地調査の代替手段として、現地で公開される最新の考古学調査報告のデジタル媒体での入手と、必要に応じた現地博物館からの関連収蔵品の写真入手に注力する考えである。写真入手については、現地博物館学芸員との直接連絡が不可欠であるが、研究代表者は既にそうした経験を豊富に積んでおり、限られた研究期間内においても円滑な資料収集を行うことに特に支障は無いものと考えている。その上で、入手した発掘調査報告と収蔵品写真の検討と合わせて、文献・史料調査を集中的に実施し、2021年度末までには当初目標を達成したいと考えている。さらに、【研究実績の概要】でも触れたように、「ゾミア」論の関連諸研究の参照と、同論の観点からの史料検討も試みる考えである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、2020年度に実施予定であったフランスでの現地調査が中止となったために、まとまった額の助成金を次年度に使用することとなった。その使用計画としては、文献・史料調査のための購入費に充てるとともに、故障の為に使用不可となった作業用PCの代替品購入費にも充てる予定である。
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