研究課題
最終年度である2022年度は、以下の3点に関して研究状況の把握と史料分析を行った。①13世紀のカスティーリャ王国とナスル朝・マリーン朝との政治・外交関係を明らかにするための史料整理と分析を行った。特にカスティーリャ王国由来の歴史書・証書史料を分析しながら、マグリブのマリーン朝とカスティーリャ王国との間で逡巡するムハンマド1世・ムハンマド2世時代の政治・外交関係の分析を行った。②14世紀から15世紀にかけてのナスル朝とジェノヴァとの通商・外交関係を明らかにするため、史料収集と分析を行った。14世紀後半という社会経済的な危機の時代にもかかわらずイタリア海洋都市国家ジェノヴァはナスル朝との通商関係を常態化し、ナスル朝領域に複数名が居留していた。彼らの残した帳簿記録の分析によって、史料上の「暗黒時代」である15世紀のナスル朝領域の社会と経済に光を当てることが今後の課題である。③14世紀後半から15世紀にかけてのカスティーリャ王国境域アンダルシーア地方とナスル朝との陸路での諸交渉を明らかにするため、史料収集と分析を行った。14世紀末から15世紀にかけてアンダルシーア諸都市古文書館の都市参事会議事録と公証人文書の記載内容から、陸路を介した小規模かつ日常的に展開されていた境域における通商関係が存在していたことが判明した。直接依拠できるアラビア語史料が極端に少なく、実態が掴みがたいナスル朝グラナダ王国社会を、軍事・外交・通商関係を通じて周辺諸国に残された史料を複数突き合わせることで、一定程度復元することが可能であることが本研究による史料収集により判明した。カスティーリャ王国由来の史料(年代記、都市参事会議事録、公証人文書)、アラゴン連合王国由来の史料(外交文書、証書)、ジェノヴァ由来の史料(外交文書、証書、帳簿)から得られる情報を今後さらに分析し、ナスル朝領域の社会復元を試みたい。
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日吉紀要 言語・文化・コミュニケーション
巻: 54 ページ: 75-96
スペイン史研究
巻: 36 ページ: 23-28