本研究はカール5世期のハプスブルク家の外交をネーデルラント総督らを中心とするネーデルラントの中枢から考察することで、ハプスブルク外交におけるネーデルラントの意義を明らかにするとともに、16世紀の国際関係においてネーデルラントの中枢が果たした平和構築の一側面を浮き彫りにすることを目的としている。本年度は、最終目標に向けて、ハプスブルク支配下のネーデルラントの役割や使節の活動をまとめることに取り組んだ。まず、ハプスブルク家とフランスの関係におけるネーデルラントの役割を、フランス史の視点からも検討するため、関西フランス史研究会で報告し、フランス王国内での平和条約の批准の仕組み、使節の活動や受け入れ、そして、フランス王母との関係について議論を深めることができた。また、スペイン史学会でも報告の機会をもらい、ネーデルラント使節の活動に関して、スペインとのネットワークについても考察し、大使や女官の動きを通してトランスリージョナルなネットワークの在り方について検討した。さらに、近世・近代ヨーロッパの比較宮廷史研究会では、ネーデルラント外交の中枢である総督の宮廷についても、改めて考察できた。また、奈良女子大学の西洋史特殊講義では、ハプスブルク支配下のネーデルラントとその外交をテーマとして授業を行い、これまでの重要な書簡を読み直す中で、使節らを取り巻く環境や、心性についても見直すことができた。以上のことをもとに、ハプスブルク支配下のネーデルラントと、当時の外交におけるネーデルラントの重要性に関する単著をまとめることに取り組んでいる。また、丸善出版の『ハプスブルク事典』において、ブルゴーニュ公国の章に関わり、いくつかの項目を執筆できたことは、ハプスブルクにおけるネーデルラントの重要性を広く示すことができたと考える。
|