研究課題/領域番号 |
18K12544
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研究機関 | 岐阜聖徳学園大学 |
研究代表者 |
武井 寛 岐阜聖徳学園大学, 外国語学部, 准教授 (10707368)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人種 / 公営住宅 / 都市史 / 住宅政策 / 制度的人種主義 / 公民権運動 / ジェンダー / 階級 |
研究実績の概要 |
4年間の研究プロジェクト3年目にあたる令和2年度は、連邦政府による住宅政策の歴史的展開と不動産業者の関係を再考し、人種主義的な住宅政策が社会制度の中に埋め込まれていく過程を検討した。当初の予定ではゴールデン・ウィークの時期にアメリカ合衆国に史料収集調査に行き、ワシントンDCにある議会図書館で平成29年度から継続的に収集してきているNAACPの記録や連邦住宅局の史料調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウィルスの影響で調査も行けず、前半の4月から9月にかけては研究自体が予定通り行えないため、これまで収集してきた史料をもとに前述のテーマについて史料分析を行った。特に連邦政府の住宅差別解消に向けた動向を、公民権運動団体の介入と人種隔離政策を維持したい不動産業界との関係の中で考察した。本研究プロジェクトの中でも史料調査は最も重要な位置を占めているが、世界的な状況を考えても調査自体が不可能であった。そのためこれまで収集してきた史料の分析を行ったが、校務の負担も大きくそれも思うように進んだとは言えない状況だった。9月以降の後半は、5月にミネソタ州で起こったジョージ・フロイド殺害事件によって人種問題に注目が集まり、特にブラック・ライヴズ・マター運動(以下、BLM運動と略記)と公民権運動との関係を明らかにするような研究を行った。これは、現在の人種問題と本研究の関連性を生かすような仕事の依頼があったためである。それらは『現代ビジネス』や『東京新聞』及び『中日新聞』、『岐阜新聞』等のメディアで発表された。また制度的人種主義の一形態として、投票権法と有権者妨害行為の実態を同志社大学の講演会で発表した。令和2年度はとにかく新型コロナウィルスの影響が大きく研究はなかなか進まなかったが、そうした中でも本研究と関連させながら、一般の人々に向けたメディアを通して研究を発表できたのは良かった点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
なんといっても新型コロナウィルスの影響が大きい。第一に本研究プロジェクトにおいて最も重要なアメリカ合衆国での現地調査を行えなかった。アメリカにおける史料収集は本研究の最も重要なことであったが、それができなかった影響は大きい。ただし、こういう状況であったことを受けて、インターネット上で公開された史料もあった。現地調査にはほど遠いが、それらのインターネット上で公開された史料は今後の研究にとっても貴重であった。第二に新型コロナウィルスの影響は本務校の教育面に影響を与え、遠隔授業が中心となったために、学生対応と授業準備の負担が大きかった。特に慣れない遠隔授業への移行は、その準備やアフターケアの面からも時間が奪われ、研究に対する時間を奪っていたのは間違いない。しかし、そうした中でも。令和2年度の後半はBLM関連の仕事で本研究と関連した住宅政策の問題、公民権運動における制度的人種主義の問題、そしてBLM運動と公民権運動の関連などについて発表する機会があった。なかなか研究論文という形ではまとめることは難しかったが、本研究と現在進行形の問題とをリンクさせて報告できたことはありがたいことであった。こうして発表してきたものの中で、研究成果として論文化できるものは令和3年度に行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も新型コロナウィルスの影響は大きく、当初予定していたワシントンDCへの史料収集は難しいと予想している。そのため、令和3年度は本研究プロジェクトに関連する二つのテーマに集中したい。一つ目のテーマは、これまでも書き進めては頓挫していた1948年のシェリー対クレーマー判決(Shelley v. Kraemer)に関する論文を完成させたい。この判決は、制限的不動産約款を用いた住宅に関する人種排除の禁止を命じた連邦最高裁判所の判決である。本テーマは長年検討してきたものであるが、膨大な史料の分析に時間がかることと、新型コロナウィルス流行によってこうした史料分析に集中できなかったことが大きい。今年度こそ制限的不動産約款に関する本テーマを執筆したい。二つ目のテーマは、1968年公正住宅法の歴史的な意義を考察した論文を執筆する。黒人の居住区を人種差別的に固定化し、居住区を色で分けて査定し、黒人の居住区を限定していた制度としてレッドライニングというものがある。レッドライニングは制限的不動産約款と並んでアメリカ社会に埋め込まれた制度的人種主義の一種と言える。この二つが公民権運動及び1968年公正住宅法といかなる関連性を持っていたのかについて、シカゴという具体的な地域を例に考察する。1968年住宅法は本研究プロジェクトの中で最も重要な位置を占めるので、連邦政府の都市住宅政策と公民権運動の関係を多角的に検証することで、1968年公正住宅法が公民権法として成立した歴史的意義を明らかにしたい。
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