本研究では、近年注目を集める都市環境史の議論を踏まえ、中世後期から近世にかけての帝国都市アウクスブルクを事例に、都市と自然環境との相互関係および都市の生活環境の実態を、都市生活に欠かせない必需品である「水」という問題領域に着目して解明することを目的とした。 2018年度からスタートした本研究は、新型コロナ感染症の世界的拡大にともない、計画していたドイツでの資料調査を中止せざるを得ず、研究は計画通りに順調に進んだとは言い難い。当初は2020年度を最終年度としていた当初の計画を変更し、2021年度まで研究を継続する結果となった。2021年度もドイツへの資料調査は断念せざるを得なかったが、都市生活における水利用にも関連してくる中近世アウクスブルクのペスト蔓延と都市の公衆衛生に関する研究報告を、2021年3月に開催された京都民科歴史部会のシンポジウム「身体へのまなざし」において実施し、その成果を論文「ペスト患者へのまなざし―中・近世アウクスブルクの疫病対策―」『新しい歴史学のために』(299号、2021年)として発表することができた。中近世ヨーロッパ都市における水の管理・利用は、下水処理なども含め、都市の公衆衛生や生活環境とも関わっており、中世後期から近世にかけて何度も繰り返し都市を襲ったペスト被害やその対策についても考察の対象を広めることができたのは、本科研における研究プロジェクトの成果の一つともいえるだろう。また、ロンドンを中心としたヨーロッパ都市と江戸との環境史的な比較史に関する成果であり、本科研プロジェクトの研究視角にとっても重要な示唆を与えてくれる、渡辺浩一/マシュー・デーヴィス『近世都市の常態と非常態―人為的自然』(勉誠出版、2020年)の書評を執筆し、『史潮』(新90号、2021年)に発表した。
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