本研究は、中国遼寧地域の漢代墳墓の内部構造と陶製明器(副葬用土器)を中心とする副葬品について、それらの変遷過程と特質を解明することを目的として、当初計画書のように以下の①から③の調査を実施した。最終年度である2021年度における成果を調査ごとに記す。 調査①:2020年度までに行った遼寧地域各地の漢代墳墓とその副葬品のデータ集成をもとにして、遼寧地域における漢代墳墓の分布とその構造、副葬品の変遷とその特質を考察した。また、遼寧地域における時期的な墳墓の特徴の差違を把握するため、漢代に先立つ戦国時代の燕国の墳墓について、遼寧地域における最新の調査成果をもとに分析を行い、その成果を発表した。 調査②:20世紀前半期に発掘された東京大学文学部考古学研究室所蔵の遼陽周辺漢代墳墓出土資料の整理調査・作業については、2020年度に続き、壺等の日用土器を模した陶製明器のほか、家や竈といった建造物等を模した陶製明器の整理作業を実施し、整理作業を完了させた。また、この遼陽周辺漢代墳墓の発掘調査の際に作成された墳墓内部の平面図や断面図等の図面(東京大学考古学研究室所蔵)の調査についても完了した。 調査③:上記の東京大学所蔵資料との比較検討のための国内外機関が所蔵する関連資料の実見調査に関しては、新型コロナウィルス感染症の流行により、予定していた中国遼寧省での調査は2021年度も不可能となってしまった。このため、東京近郊で調査可能な関連資料を多数収蔵する東京国立博物館及び、國學院大學博物館にて、遼寧地域の漢代墳墓から出土した陶製明器を中心に、銭貨や鉄製品等を含む資料を年度内に継続的に調査し、資料が出土した墳墓や出土資料の年代的位置付けや特徴等を考察した。
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