エジプトと西アジア。両地域は新石器時代から文化的交流を深め、やがてそれぞれが国家の成立を迎える。その中で新石器時代後期に発生したフリント製両面加工ナイフは、農耕・牧畜技術に代表される所謂「Neolithic package」として エジプトに伝播し、これが初期国家形成期のエジプトでは威信財(稀少石器)として独自の技術的変容を遂げる。本研究の目的 は、このように両地域を密接につなぐ考古資料のひとつである両面加工ナイフの製作技術および特にエジプトでの発達過程を検証 することにより、初期国家形成期の人間社会の変化をモノづくりの観点から論じることである。 2020年度は、前年度冬期にエジプト現地にて実施した資料調査のデータ整理をおこない、ヒエラコンポリス遺跡のエリート墓地から出土した石器資料について、製作技術について検討を行なった。 エリート墓地からは様々な精巧な石器が出土するが、これらは製品の形状、出来栄え、制作技法などの観点から1)大型両面加工石器(良品)、2)大型両面加工石器(並品)、3)小型両面加工石器(石鏃系統)、4)細石器、5)リサイクル(製作剥片転用品)という5種類に大別した。さらに、これらの5種類の石器は、技法や技術の高さに違いはあるものの、利用石材には共通する点も見られた。このことから、エリート墓地に供された精巧な石器は、各々が別個の生産ラインでつくられたいわゆる「寄せ集め」ではなく、支配者により管理された工房において一元的に生産されていたことが想定された。(投稿中)
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