研究課題
本年度は公務のために、ドイツのハイデルベルクに約2ヶ月間滞在した。それを良い機会として、ヨーロッパにおけるギリシア・ローマ時代の遺跡・遺物の調査を精力的におこなった。ガンダーラにおける物質文化の成立過程に、これら地中海の文化が大きな影響をもったと考えられてきたためである。ギリシアやイタリアに渡航し、遺跡の踏査や博物館での遺物の調査をおこなった。予備的な調査に留まるものの、ガンダーラにおける物質文化のどのような側面に地中海的な要素があらわれるか、という点を考察するのに必要なデータが得られた。ハイデルベルクにおいては、北方パキスタン考古学の大家ハラルド・ハウプトマン名誉教授宅を訪問し、研究の相談をした。また、ハイデルベルク大学の文化越境センターにおいて、現在自身がおこなっている浮彫画像帯の研究方法について口頭発表し、破片資料から仏伝物語を再構築する方法を紹介した。そして、7月にイタリアのナポリ東洋大学で開催された南アジア美術史・考古学会(European Association for South Asian Archaeology and Art, EASAA)に出席し、口頭発表をおこなった。パキスタンのタレリ遺跡のC地区において出土した浮彫画像帯のセット関係を示し、そこからわかる年代的な位置づけについての見解も紹介した。本発表の内容は2月に論文として整理し、同学会の学会誌に投稿した。研究論文としては上記のもの以外に、前年度にイギリス・オクスフォード大学で開催されたガンダーラにかかわるワークショップで発表した内容を論文として執筆し、論文集に投稿した。本論文集は、すでに公刊されている。これら以外にも、3月には、京都大学で開催されたアフガニスタンの歴史と文化にかかわるワークショップに参加し、オーストリア・ウィーン大学の調査チームとの連携を深めた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、図らずもヨーロッパにおける長期滞在が発生したため、パキスタンやインドにおける現地調査をおこなうことはできなかった。しかし、視点を変えて、ガンダーラの物質文化に多大な影響を与えた地中海域の物質文化を確認する方針をとったことにより、今後の研究において役立つと考えられる研究データが得られた。研究発表や論文投稿についても充実した成果を残すことができた。以上のことから、研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
本年度は、ガンダーラにおける遺跡のうち、タレリ遺跡の1つの地区から出土した浮彫画像帯を取り上げ、集中的に分析をおこなうとともに、その分析結果の概要を公表した。基本的には研究の方針を変える必要は感じていない。今後も、タレリ遺跡における浮彫画像帯の分析を継続するとともに、メハサンダ遺跡やラニガト遺跡など、ガンダーラの他の遺跡から出土した浮彫画像帯を取り上げ、分析することで、研究を推進する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
The Geography of Gandharan Art: Proceedings of the Second International Workshop of the Gandhara Connections Project, University of Oxford, 22nd-23rd March, 2018
巻: 1 ページ: 41-57
歴史と地理 世界史の研究
巻: 719 ページ: 55-58