本研究の目的は、古人骨の形態、特に筋付着部の発達度分析を用い、社会的格差の拡大が人間の身体活動の多様性に与えた影響を検討し、その歴史的な展開過程を明らかにすることである。主たる対象は、日本列島において階層化が進行した時代である古墳時代の古人骨であり、社会の階層化に伴い、生業活動に直接的に従事しない特権階級や専業集団の出現など個人の役割・身分が確立していく過程において、性別や年齢、身分・階層ごとに被葬者間の身体活動の差がどのようにあらわれるのかを検討することを目的としている。 2020年度から2021年度は新型コロナウイルス感染症のため外部機関への資料調査が困難であった。そのため、当初計画を大幅に変更し、申請者が所属する九州大学総合研究博物館に所蔵される数多くの古人骨を活用した研究を行うこととした。弥生・古墳・江戸時代人骨の調査および、頭蓋骨の3Dデータの生成、江戸時代人骨資料のMSMsデータを用いた研究を行った。縄文・弥生・古墳・江戸時代の頭蓋骨400体の3Dスキャンを行った。これに加えて2023年度では外部機関における調査を再開することができた。 本研究全期間で、頭蓋骨の3Dデータ(合計800体)の生成を行った。これは今後多くの研究の基礎となるビックデータになりうるものである。その解析に先立って弥生時代人骨の顔面部形質の線計測によって再検討し、古墳時代に先行する時期の顔面部形質の地域性について明らかにした。また、江戸時代人骨のMSMsの検討に基づいてMSMsパターンの個体の共有度の時期的変遷を検討し、武士の官僚化に関する考察を行い、階層社会における身体活動の階層間格差のモデル化を行うことができた。
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