研究課題/領域番号 |
18K12555
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
森 貴教 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (30775309)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 弥生時代 / 青銅器時代 / 初期鉄器時代 / 石器 / 鉄器化 / 生産・消費システム |
研究実績の概要 |
本研究は、日本列島弥生時代および朝鮮半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代における石器生産・消費システムと鉄器化に関して日韓比較を行い、東北アジア先史時代の観点から初期農耕文化・鉄器文化の受容・展開と社会変化過程を考察することを目的とする。研究対象地域は、朝鮮半島南部から日本列島各地域(主に日本海沿岸地域)である。 今年度は、具体内容として以下ア~エの4点について検討を進めた。ア)弥生時代併行期における石器生産・消費システムと石器石材に関する基礎的検討。日韓で広域に分布する石器石材である「層灰岩」の岩石学的・地球化学的研究を進めた。イ)石製農具の実験使用痕分析・収穫実験の実施。石器のライフ・ヒストリーの一端を明らかにするために、復元石庖丁を用いてイネの収穫実験を行い、使用痕分析を行った(埼玉県入間市西久保湿地実験水田)。このことにより、日韓に分布する特徴的な形態を呈する石庖丁(左右交互刃石庖丁)の使い方・機能に関して多くのデータを得た。ウ)弥生時代列島各地域における石器から鉄器への材質変化(鉄器化)に関する研究。列島各地(越後地方、北陸地方、近畿地方、中九州)の弥生時代集落遺跡出土の砥石を対象として、砥石目(砥石粒度)組成や消費形態の変遷に基づいて鉄器化とその意義を評価した。エ)県内遺跡の発掘調査を通じた日本海沿岸地域の地域間交流に関する検討。日本海沿岸地域における弥生時代後半期の社会変化を考えるうえで、いわゆる「高地性集落」の動態や出土土器などから把握される地域間の交流関係、玉作の様相、鉄器の入手は重要な検討課題となっている。そこで、新潟県長岡市島崎川流域に所在する上桐の神社裏遺跡の学術発掘調査を実施した。弥生時代中期後半を中心とした土器等が多量に出土し、多くの遺跡情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
弥生時代の石器石材として用いられている「層灰岩」の原産地について、一定の見通しを得ることができた。特に石材原産地の有力候補である北九州市域・脇野亜層群と朝鮮半島南部・洛東層群の「層灰岩」の地球化学的分析により化学組成を明らかにしたうえで、考古資料である下稗田遺跡出土の「層灰岩」製石器の化学組成がいずれの地域のものに類似するかについて検討を進めることができた。今後分析の精度を高めるため、日韓両国の遺跡から出土した石器資料の分析が不可欠となるが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行という事態の終息を待ちつつ分析を行っていきたい。 鉄器化に関する研究については、近畿地方・日本海沿岸地域の弥生時代遺跡を対象として積極的に分析を進め、論文化できた。また、新潟県長岡市島崎川流域に所在する上桐の神社裏遺跡の学術発掘調査を実施し、弥生時代中期後半を中心とした遺跡に関する多くの情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
①原産地とされる地域の「層灰岩」の地球化学的分析を行い、各地の地球化学的特性を明らかにする。その分析過程で、石器分析の有効な手法と測定元素を検討し、これを石器資料に適用する。これらのデータを用いて、弥生時代併行期の石材採取と石器生産・流通システムを詳細に解析する。 ②新潟県長岡市島崎川流域における弥生時代遺跡群の発掘調査・研究。2019年度に実施した発掘調査の成果を受けて、夏期に上桐の神社裏遺跡第2次調査を実施する。2020年度末に、2カ年実施した上桐の神社裏遺跡発掘調査の調査報告書を刊行する。 ③これまで行ってきた弥生時代の石器生産・消費、鉄器の導入に関する研究をまとめる。特に、砥石を対象として、砥石目(砥石粒度)組成や消費形態の変遷に基づいて石器から鉄器への材質変化(鉄器化)を把握する研究については一定の研究成果が得られていることから、こうした研究成果を総合的にまとめていく予定である。
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