本研究は、日本列島弥生時代および朝鮮半島南部の青銅器時代・初期鉄器時代における石器生産・消費システムと鉄器化に関して日韓比較を行い、東北アジア先史時代の観点から初期農耕文化・鉄器文化の受容・展開と社会変化過程を考察することを目的とする。研究対象地域は、朝鮮半島南部から日本列島各地域(主に日本海沿岸地域)である。 具体内容として以下ア~エの4点について検討を進めた。ア)弥生時代併行期における石器生産・消費システムと石器石材に関する基礎的検討。日韓で広域に分布する石器石材である「層灰岩」の岩石学的・地球化学的研究を進めた。イ)石製農具の実験使用痕分析・収穫実験の実施。石器のライフ・ヒストリーの一端を明らかにするために、復元石庖丁を用いてイネの収穫実験を行い、使用痕分析を行った。日韓に分布する特徴的な形態を呈する石庖丁(左右交互刃石庖丁)の使い方・機能に関して、実験結果を論文化した。ウ)弥生時代列島各地域における石器から鉄器への材質変化(鉄器化)に関する研究。列島各地(新潟、北陸地方、近畿地方、中九州)の弥生時代集落遺跡出土の砥石を対象として、砥石目(砥石粒度)組成や消費形態の変遷に基づいて鉄器化とその意義を評価した。また、砥石の表面解析の方法についても検討した。エ)発掘調査を通じた日本海沿岸地域の地域間交流に関する検討。日本海沿岸地域における弥生時代後半期の社会変化を考えるうえで、いわゆる高地性集落の動態や出土土器などから把握される地域間の交流関係、玉作の様相、鉄器の入手は重要な検討課題となっていた。そこで、新潟県長岡市島崎川流域に所在する上桐の神社裏遺跡の学術発掘調査を実施した。弥生時代中期後半を中心とした土器等が多量に出土し、多くの遺跡情報を得た。最終年度には2019・2020年度に実施した遺跡の発掘調査の成果についてまとめ、調査報告書を刊行した。
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