本研究の目的は、日本列島の手工業における土器生産の分業がはじまる社会背景を検討することである。特に、北部九州地域の弥生時代中・後期の埋葬棺である大型専用甕棺を対象に、土器生産体制や移動現象からみた社会関係の変化を解明する。分析方法は、考古学的手法に基づく型式学的検討および地球科学的分析手法を用いた胎土分析を併用する。まず、甕棺の形態的特徴を考古学的手法で検討して地域性や規格性を析出する。次に、胎土分析を実践することで、甕棺の原材料の特徴から製作場所を特定し、移動現象を把握する。甕棺の考古学的検討および胎土分析結果を、これまで蓄積してきた日常土器・赤彩土器の胎土分析結果と比較することで、土器生産体制を検討する。以上の成果を統合することで、社会の複雑化が進展する段階における手工業生産の変容プロセスを解明する。 令和3年度も引き続き、これまでに作成した大型専用甕棺データベースの情報を追加・更新するとともに、胎土分析の実施にあたっての考古学的記録の作成(資料選定、観察、写真撮影、顕微鏡写真撮影など)および型式学的検討、資料選定を行った。また、関連分野の研究者と議論して、分析方法やデータ解析方法の改善および洗練化を図った。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響にともなう行動制限の影響で、資料調査や分析を十分に実施することができなかった。そのため、対象資料の範囲を広げて、甕棺本体だけでなく、関連する弥生時代の日常土器、比較資料として古墳時代以降の土器等についても検討を進めた。土器の時代、地域、種類、形態的特徴と胎土との関係については、今後も引き続き検討を進める予定である。
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