研究課題/領域番号 |
18K12560
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
山藤 正敏 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (20617469)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シルクロード / 天山北路 / セミレチエ / チュー渓谷 / キルギス共和国 / 考古学踏査 / 突厥 / ソグド人 |
研究実績の概要 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症拡大により、現地調査を実施できなかったことから、昨年度までに収集したデータの整理・分析を中心に研究を進めた。 昨年度までに52遺跡を記録したが、このうち1件(CV19029)は未知の中型居住地(Town)であり、周囲は城壁で囲われ規模は約4.4haである。本年度は、遺跡の年代と構造について検討した。採集土器から、同遺跡は概ね9世紀後半から10世紀後半に位置づけられる。構造については、城壁部分が中央アジア都市の内城(シャフリスタン)にあたると解釈し、その周囲には直径1.3㎞程度の範囲に外城(ラバト)が広がっていた可能性がある。CV19029は、その利用時期に鑑みて、東に20㎞を南北に走るシルクロード天山北路の支線に関わると推測されるが、未確認の路線の存在をも示唆している。 また、昨年度までに土塁と周溝から成る小型遺構を複数確認したが、この機能が問題となっていた。その後、南シベリアからモンゴルにかけて分布する突厥の追悼遺構に類似することがわかってきた。突厥の追悼遺構は土塁と周溝より成り、平面矩形を呈する。出入口は東側に設けられることが多く、土塁の外から出入口側に対して直角に石列が並ぶ。規模は大小様々であるが、可汗クラスのキョル・テギン廟は、周溝の内側が東西67.25m、南北28.25mの版築の土壁に囲われ、ここから東方に延びる石列は約3㎞にも及ぶ。なお、これまでの調査では25遺跡で小型遺構を確認したが、うち22基が平面矩形を呈する。規模は内寸で70㎡以下と80㎡以上に分かれ、最大でも154㎡であった。出入口と思われる土塁・周溝が途切れる箇所は内寸50㎡以上の遺構で見られた。また、矩形小型遺構の多くは小河川の東岸に造られていたことから、元来は東方に石列が並んでいたのかもしれない。以上から、矩形小型遺構は6~8世紀頃の追悼遺構の一種と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は調査対象地域の北東部および南部を中心に現地において考古学踏査の実施を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大による海外渡航の中止に伴い、現地での調査を実施することができなかった。この代わりに、これまでのデータを整理・精査し、遺跡の機能や特質等について詳細に検討する機会を得て、中型居住地(CV19029)の年代と構造の解明や、矩形小型遺構が突厥時代の追悼遺構である可能性を認識するに至り、一定の成果を上げることはできた。しかし、本研究は、現地での考古学踏査を通じて、調査対象地域全体の文化史的状況を解明することを研究目的の1つに据えている。このため、キルギス現地において新たな遺跡情報を収集できなかったことにより、シルクロード天山北路の形成にまつわる文化史的状況の包括的な把捉に関して、当初計画からやや遅延していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、北東部や南部等の遺跡が比較的密集する地域に主眼を置いて、同様の精度で考古学踏査を徹底的に実施し、新規遺跡を確認・記録する予定である。ただし、初年度に指摘したところであるが、表面調査では遺物の採集が難しい場合が多く、また、小規模な試掘だけではこの問題は解消されえないことをすでに認識している。このため、来年度以降は、調査期間や研究予算に鑑みつつ、時期や機能を明確化する目的で、確認した遺跡の一部を発掘する可能性を引き続き探る予定である。 なお、新型コロナウイルス感染症が収束を見せず、本年中の現地渡航が難しい場合に備えて、高解像度の衛星画像を用いてリモートで現存遺跡の新規記録を実施することも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、キルギス現地での調査や国際学会への参加ができず、予算を執行できなかった。また、昨年度までのデータの整理・分析に際しては、昨年度までに購入した機材や無償のGISアプリケーションを使用できたため、追加で備品購入等を行う必要がほとんど生じなかった。このため、今年度予算の多くを次年度に使用することになった。この予算は、キルギス現地調査や衛星画像データ等の購入に使用する予定である。
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