研究課題/領域番号 |
18K12562
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
板橋 悠 筑波大学, 人文社会系, 助教 (80782672)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射性炭素年代測定 / AMS / 考古遺跡出土骨 / アミノ酸 / 微量年代測定 / 遺跡資料からの汚染除去 |
研究実績の概要 |
考古遺跡出土骨で放射性炭素(14C) 年代を行う際には骨から抽出されたコラーゲンが利用されてきた。しかし汚染の残る資料では、信頼できる年代が得られないことがある。そのため、コラーゲンから一部のアミノ酸を単離し、14C年代測定を行う方法が試みられているが、通常の14C年代測定よりも大量の資料破壊が必要となり、資料破壊が望まれない考古学研究に用いることは難しい。考古学研究に対応可能にするため、本研究では資料破壊の微小化と処理の迅速化を試みている。 【考古資料への応用】昨年度はコラーゲンを用いた従来法による14C年代測定により、信頼できる年代測定結果が得られている資料において、従来法と本研究で開発している単離アミノ酸14C年代測定に補正が必要ながらも一貫する年代値が得られることを確かめた。当該年度は、従来法では信頼できる年代値が得られなかった汚染の残る資料において、従来法と本手法で得られる年代値に違いが見られるかを検証した。その結果、炭素・窒素含有比(C/N比)や炭素同位体比から汚染が残ると判断され、共伴遺物の14C年代よりも新しい年代が得られたため信頼できる年代値ではないと判断された資料において、共伴遺物と同様の年代値が得られた。一方で、従来法で汚染の残るコラーゲンとされていた資料の一部では、アミノ酸が全く回収されない例も確認された。これは従来法で分析に供されたコラーゲンとされた試料の一部にはアミノ酸以外の成分で構成された試料が含まれており、本手法を使用できない骨資料が多く存在していることを示している。 【成果報告】本研究の成果を2019年6月に行われた文化財科学会 第36回大会で口頭発表し公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【考古資料への応用】2019年度前半は本手法を考古遺跡出土骨に応用し、アミノ酸の単離・精製を行い、通常のコラーゲンによる14C年代測定と比較した。汚染が残ると判断され、汚染が残り測定値が本来の年代から変化していると判断された資料において、年代値が想定された値に変化し値の改善が見られた。一方で、本研究の最終目的である従来法で汚染の残るコラーゲンとされていた資料では、アミノ酸が回収されない試料が多く確認された。従来のコラーゲンの14C年代測定で保存が悪いコラーゲンで年代値が変わってしまう要因の一つとして、コラーゲンに汚染が沈着しているだけでなくアミノ酸が変質していた可能性が示唆された。 【分析資料のプレスクリーニング】「汚染の残るコラーゲン」とされた試料において、本手法が応用できない例が多く確認されたため、2019年度後半に資料を破壊する前に信頼できる年代測定が期待できる資料を選別する方法を検討した。年代測定のためにコラーゲンを抽出する際には、通常500~1000mgの骨を切り取って処理に供する。しかし、10mgの骨粉末の窒素含有率と回収されるタンパク質量に相関があることが示され、年代測定が可能な資料の指標となることを確認した。資料を破壊する前にプレスクリーニングを実施することで、単離アミノ酸14C年代測定を適用可能な資料を選別し、無用な破壊を抑えることが可能となった。 【進捗の遅れ】本研究で応用予定であった、従来法で汚染が残るとされた試料の多くで、アミノ酸が回収されず、予定の応用数を満たすことができなかった。そのため、予定を変更して資料破壊前のプレスクリーニング手法の開発を行った。また年度後半に新型コロナウィルス感染拡大があったため、共同研究先との連携が行えず結果のとりまとめに支障が出た。したがって、次年度に計画を延長し結果のとりまとめと追加の検証、成果の公表を行う。
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今後の研究の推進方策 |
【追加の分析】本手法の目的は、考古学研究の中で散見される従来法では信頼できる年代値が得られなかった骨試料の14C年代測定を、アミノ酸の微量14C年代測定により通常業務として行えるように改良することである。本手法により、植物由来の有機酸や岩石由来の石灰質などがコラーゲンに沈着した試料の14C年代を改善できることが確認された。一方で、評価指標により汚染が残るとされてきたコラーゲンの中にはアミノ酸が含有されず、成分がコラーゲンから変性している試料が多数含まれていた。これらの試料では、本手法を適用できない。そのため、本手法を応用できた資料数は当初の予定よりも限られている。したがって本手法の有効性を示し、論文化するためには資料数を増やす必要がある。そのため、2020年度は従来法と本手法の測定結果を比較できる例を増やすため、汚染が残ると評価されたコラーゲンの分析数を増やす。 【成果報告】本手法による考古資料の14C年代の変化や改善の結果を手法開発論文として雑誌論文に投稿する。候補として『Radiocarbon』誌を想定している。また本手法を応用した考古資料の14C年代を、歴史研究として継続的に雑誌論文や報告書で発表していく。
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