本課題は、遺跡から発掘された鉄製文化財の保管・展示時の劣化特性をその埋蔵環境から予測し、それ基づいて保管するという、より効率的で安全な保管管理システムを構築するための基礎データを収集することを目的としている。令和2年度は1)埋蔵時の腐食メカニズムの把握のためのカラム腐食実験、2)カラム腐食実験のモデル化と数値解析による再現、3)鉄製文化財のX線CTを中心とした劣化状態調査を実施した。以下、それぞれの実績を記す。 1)カラム腐食実験では砂質土を充填し、下端部に炭素鋼電極を設置したカラムを用い、水分飽和から乾燥過程での分極抵抗、およびマイクロ酸素センサを用いて間隙水中の溶存酸素濃度を計測した。水分飽和状態では溶存酸素の拡散層が形成され、分極抵抗は一定値に収束した。一方、乾燥過程では土中に気相酸素が取り込まれることで溶存酸素濃度が上昇し、分極抵抗が低下した。得られた結果は腐食防食学会主催の「材料と環境2021」にて発表を予定している。 2)カラム腐食実験の結果を水分飽和過程から乾燥過程の腐食速度が極大を迎えるまでを溶存酸素の拡散律速、その後の腐食速度の低下を鉄(Ⅱ)イオンの拡散律速とするモデルを構築し、そのモデルに従って、土中の熱・水分、気相・溶存酸素、鉄(Ⅱ)イオンの物質移動を有限体積法にて離散化し、さらに、電気化学的な理論に基づき逐次、腐食速度を算出する数値解析を進めた。 3)異なる埋蔵環境と推定される遺跡から出土した複数の鉄製文化財の非破壊材質分析、およびX線CT撮影を実施した。その結果、還元環境から出土したと考えられる鉄製文化財では、菱鉄鉱などの腐食生成物が形成され、金属鉄の均質な減肉が認められた。一方、酸化的な環境から出土したと鉄製文化財では、腐食生成物として針鉄鉱、および磁鉄鉱が検出され、その金属鉄は局所的に減肉していることが認められた。
|