研究課題/領域番号 |
18K12571
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上野 恵理子 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (70747146)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 解剖図 / 美術解剖学 / 教育用掛図 |
研究実績の概要 |
2018年度は、解剖学教育用掛図および解剖学資料の調査を中心に、近代から現代にかけて身体の表現における「平面性」がいかに変遷したか、美術史的な検証を行った。特に図像の輪郭に注目し、線描を中心とした技法をもって立体的な身体がいかに二次元化されたか、分析した。様式的な分析を行う中で、解剖学教育用掛図に限らず、植物学など多分野における同時代の資料も参照した。特に、京都大学総合博物館所蔵の、G.パプスト編『ケーラー薬用植物図鑑』(1890年頃)を拡大模写した教育用掛図60点に注目した。立体感の表現より植物学的正確さが優先された結果、一貫して平面的な空間表現が見受けられる。この様式は同時代の手描きの解剖学教育用掛図にも見受けられる傾向である。 本研究の基本資料体である、東京大学医学部所蔵の新出解剖学教育用掛図の調査を開始した。当初、302点の調査を予定していたが、調査期間中に掛図が新たに発見され、現在、その総数が696点に及ぶ。そのなかから80点を選定し、修復・デジタル化したうえで記載した。その他、掛図全696点を仮撮影し、リスト化した。その結果、コレクションを網羅する総合的なデータベース作成が可能になった。 また、本研究の比較対象として、教育用掛図を所蔵する国内の研究機関で実物調査を行った。掛図の体裁、輪郭を主とする図像の描き方、色彩の表現や印刷の塗り重ねを中心に、教育用掛図の基本的な技術的・様式的レパートリー(使用されている技法や主な様式的特徴のリスト)をコレクションごとにまとめた。 他研究機関所蔵の教育用掛図において、修復保存に関する調査を行った。特に台紙の扱い、和軸の保管方法に注目した。一方、2020年度にデジタル化の対象となっている、重度に損傷した教育用掛図の修復方法について、最終的な結果が見出せなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解剖学資料の美術史的調査、基本資料体である東京大学医学部所蔵の新出解剖学教育用掛図の調査・修復・デジタル化、そして比較対象となる掛図を所蔵する国内の研究機関における実物調査はそれぞれ予定通り進んでいる。 2018年4月から10月にかけて、東京大学医学部所蔵の新出解剖学教育用掛図を全696点調査した。個々の掛図の同定に向けて、内容および状態を記載し、仮撮影および計測を行った。掛図の総数が予定より大幅に増えたため、まずは全点のリスト化を優先した。 2019年1月には、新出解剖学教育用掛図696点のうち80点を選定し、修復した。損傷は軽度のため、特に問題はなかった。修復した状態で、専門業者によるデジタル化を行った。 2018年12月そして2019年1月に、京都大学総合博物館(掛図62点+未整理10点所蔵)、京都大学吉田南図書館(掛図2点)、金沢大学中央図書館(掛図24点)、金沢大学資料館(掛図17点)において教育用掛図の実物調査をした。その結果、2019年1月から3月にかけて、上記コレクションと東京大学医学部所蔵の新出解剖学教育用掛図コレクションとの比較調査を行った。 一方、掛図の保存状態を調査したものの、重度の損傷が見受けられるものについて、最終的な修復方法が見出せなかった。紙資料を全面的に補強した場合、その修復が不可逆的であり、「掛図」としての機能を失う場合もあるため、その類の補修は見送り、修復方法について引き続き検証することにした。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は予定通り、解剖学教育用掛図および医学・美術解剖学資料の調査を続ける。2018年度は近代の資料を中心に調査したが、2019年度は現代美術も視野に入れる。 並行して、東京大学医学部所蔵の新出解剖学教育用掛図の調査・修復およびデジタル化も進める。軽度に損傷したものを中心に、予算範囲内でデジタル化できる80点を対象とする。掛図全696点のリスト化は完成したものの、その詳細な記載はまだ終わっていない。新たにデジタル化する80点をはじめ、可能な限り内容および画工の同定を行い、最終年度に完成予定のデータベース化に向けて詳細な記載を行う。また、2018年度中に、重度に損傷した掛図の保存方法が見出せなかったため、2020年度にデジタル化する予定の状態の悪い掛図25点をもとに、保存方法を引き続き検証する。 2019年秋には、本研究の基本資料体と同年代に制作された医学教育用掛図を保管しているリヨン第一大学「医学史薬学史博物館」、「パリ大学間医学図書館」およびボローニャ大学「解剖学ムラージュ博物館」においてそれぞれ3日間調査し、同時代ヨーロッパにおける解剖学掛図の様式を系統的に分析する。 2019年度中には、最終年度に公開するデータベースの構築に向けて準備も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の予算に物品(撮影機材)および謝金(掛図調査の補佐)を計上していたが、作業が順調に進み、全額を使用しなかった。一方、新たな掛図が見つかり、総数が倍以上に増えたため、2019年度は掛図の調査を強化することにした。次年度使用分の予算を掛図調査の補佐(謝金)に当てる。
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