研究課題/領域番号 |
18K12573
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高畠 千尋 信州大学, 先鋭領域融合研究群山岳科学研究所, 研究員 (50771052)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 野生動物による人里利用 / 出没パターンの地域差と共通性 / 人里周辺環境の利用過程 / 人里の立地特性の定量化 / 野生動物による人里利用の制御 |
研究実績の概要 |
野生動物による人里への出没頻度や時期に影響を与える要因には、地域によって異なる要因と地域間で共通する要因が含まれるだろう。これまで出没の要因を探るため、個体数密度や種内での相互作用など動物学的な研究アプローチが多かった。しかし出没に伴う人と野生動物間で生じる「軋轢管理」を適切に実施するためには、野生動物の行動のみならず、それらの行動に与える人間の影響を精査する必要がある。その一つとして、人による土地利用や管理の変化に対して、野生動物の生息地選択がどのように応答するかを探ることが有効である。そこから野生動物による人里利用を制御するために必要な土地利用や生態系の管理手法を特定化できるからである。しかし、居住地・道路などで構成される人里の景観構造やその立地特性などの地理的要因、人の土地利用の変化に伴う農地・林地などの資源生産地の景観変化が与える影響については、これまでのところ未解明なままである。 我が国では、ツキノワグマの出没の頻度や出没の多い時期などが地域によって異なる。このような地域差が、人の土地利用や管理の違いによって生じる餌資源の分布の地域差によるものなのか、または、それらとは独立した地形や標高など人里そのものの地理的条件が起因しているかは不明である。そこで、同じ山域にも関わらずクマによる人里への出没様式が異なる地域を比較することによって、人の土地利用や管理の影響がどの程度普遍的に影響を与えているかを明らかにできると考えた。具体的には、中央アルプス北部で植生・気候条件がほぼ同一の山域内で、森林施業頻度や里山林・耕作放棄地・河畔林の分布パターンが異なる2地域である、伊那市小黒川流域(人里地域)と辰野町横川川流域(国有林地域)を対象地とした。この2地域において、クマが実際に利用した地点を示すGPS首輪データを収集したところ、夏季の出没パターンが著しく異なっていたことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ツキノワグマへのGPS首輪装着および追跡によって、辰野町横川川流域の集落周辺と伊那市小黒川流域の集落周辺におけるクマが利用した場所のデータを収集することができ、データの整理・観察から、クマによる人里への利用頻度・行動圏サイズ・夜行性昼行性の割合・人里利用の季節変化など2地域間の出没パターンの相違と共通点の整理ができた。 しかし一方、2地域それぞれの景観構造や地理的条件の違いに関する地理情報データが収集途中である。解像度の高い衛星画像データを入手したが、それらを元に地理情報システム上での解析手法の検討に時間が取られ、全体的に土地利用区分をする作業が遅れている。そのため、土地利用区分を検証するための現地踏査ができておらず、対象とする2地域の景観構造の違いを解析する準備までに至っていない。次年度は早急にこれらの作業に取りかかる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は助言協力者とともに、人里の景観区分と配置および地理スケールでの人里の立地特性の定量化とその評価手法の検討に入る。その準備段階として衛星画像を用いた空間解析モデルによって、放棄期間ごとの耕作放棄地、里山林の管理・未管理の区分、人為および天然攪乱地の特定化など詳細な空間分布を推定し地図化する。その後、現地踏査および土地利用履歴に関する地元資料、必要に応じて地元関係者への聞き取りなどによって土地利用の詳細な補足データを入手し、衛星画像解析モデルの信頼度を補強する。一方、クマのGPSデータから行動圏サイズ、夜行性・昼行性の割合、人里利用の季節変化などの行動比較から、2地域間の相違と共通点を整理し定量化する。 最終年度では、人里の景観区分と配置および立地特性の定量化手法を確立し、最終的にクマの出没パターンの地域差と共通点への影響度を推定する景観特性ごとの出没確率モデルを構築し、生息地管理に応用可能な土地利用・管理手法の特定化をめざす。これらの結果は、日本のような人口密度が高く土地利用区分が細かい地域での、人と野生動物の軋轢軽減のための生息地管理への提言を含んであり、国際的にも高い関心を引くことが予測される。従って、研究成果は途中の過程においても、国際学術誌での論文発表および関連する国際学会での発表を積極的に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた調査のうち、衛星画像の入手が遅れた上、解析手法の検討に時間を要し、現地調査が行えなかった。また研究助言者との打合せが十分できなかったため次年度使用額が生じた。 (使用計画) 次年度使用額は平成31年度請求額と合わせて、現地調査の回数を増やして使用するとともに、研究助言者との打合せ旅費として使用する予定である。さらに調査で得られた成果の学会発表、論文発表に使用する計画である。
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